第8話 願いはひとつ

「……なんで分かったの?」


しらを切るか悩んだが、興味が勝った。

だが、返ってきたのは、予想もしない言葉だった。


「愛する女性の交友関係は、把握して当然じゃあないですか」


背筋が震えた。


「お友達のあなたが、夜の蝶で働いていることは知っていましたが、お店に行ったのは本当に偶然だったんですよ」


じゃあ、あのヘルプについた時には、もう知られてたってことか?


「あの日、隣にいらっしゃった時、僕に何か言いたげな様子でしたから、あなたも気づいていたのかなとは思っていたんですよ。ただ、そのことをお話するタイミングもなかったので、今日はいい機会かと」


表情を崩すことなく話す相手に、俺は言葉が出ない。

そこへ、ちとせが戻ってきた。


「お待たせしました……ん?どうしたの葵ちゃん?」

「ちとせさん、俺、この人との交際は反対する」

「え……どうしたの急に」


キョトンとするちとせ。


「すみません、僕が驚かせるような事を言ってしまったんです」

「あ……そうなんですか?葵ちゃん、一体何話してたの?」


心配そうに俺をのぞきこむちとせ。


「シンプルにストーカーだって」


それしか言えない。語彙力。


「ストーカー……たしかに。間違ってはないと思いますよ?」


うわ肯定してきた。

だが、その後に続いた言葉は意外なものだった。


「僕は、ちとせさんが幸せになるのを見届けないといけないんです」

「……ちとせの、幸せ?」


俺の言葉に頷く男。


「ええ。……できるなら、僕が幸せにしたいのですが、ちとせさんが望むのなら、他の誰かとでも構わない」


笑顔が消え、真面目な表情を見せる。


「僕はそれを見届けるために、ちとせさんに会いにきたんです」


意味わからん。

ただ、冗談言ってる雰囲気ではないのは確かだ。


「……でも今はただ、友達として仲良くしてもらえれば、それでいいんです。その先は、なるようにしかならないと思っているので」


そのまましばらく、沈黙が続いた。

立ったままだったちとせは、椅子を引き、俺の隣に座る。


「ひとつ、聞いていいですか?」


沈黙を破るちとせの言葉。


「……私が、そこまで篝さんに思われる理由って、一体なんなんですか?」

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