第7話 空飛ぶペンギン
約束の5分前に、待ち合わせ場所の池袋東急ハンズ前へ着いた俺とちとせ。
そこには既にあの男の姿があった。
「篝さん!お待たせしちゃってすみません」
「いえ、楽しみで早く着きすぎてしまったんです。待ち合わせの時間前ですし、気にしないで」
そう言いつつ、視線は俺の方に。
「あ、この子、お友達の葵くんです」
「ども、石田葵っていいます。篝さんでしたよね?俺まで誘っていただいてありがとうございまーす」
ここまで全く心がこもっていないありがとうもないよな、と自分でも思ってしまう。
「いえ、ちとせさんから、あなたのお話をたくさん聞いていたので、お会いできるのを楽しみにしていたんですよ?」
「そうなんすか?……ちーとーせーさーん?俺の秘密とか、バラしてないだろうねえ?」
じとーっとした視線をちとせに送る。
「えっ、秘密?ほ、ほら、葵ちゃんってしょっちゅうお取り寄せしたお菓子分けてくれるから、こんなのもらったんですって報告してただけだよ?」
「そう、僕がちとせさんに、日々の出来事を知りたいってせがんだんです」
「そう……他に書くこともないし、気づいたら葵ちゃんの話題が8割……」
呆れて何も言えない。
「ま、まあ、高校からの腐れ縁だもんな……」
「うん……だって私たち、お互い他に友達いないじゃん……」
「いや、ちとせと一緒にすんなよお!」
そんな俺たちを見て、あの男は肩を震わせながら笑っている。
「ふふふっ……ふふっ……親友っていいですね……ふふっ」
「あっ、いや、これは!あーもう!葵ちゃんのバカ!も、もう、水族館!水族館行きましょ!」
「い、いたっ!痛いって!バカはどっちだよ!」
結構な強さで叩かれた後、俺は無理矢理ちとせに引きずられていった。
***
目的地のサンシャイン水族館に着いた。
学生の頃は暇があるとよくちとせと来ていた、思い出の場所でもある。
リニューアルしてからは来たことがなかったから、色々と変わっている事にテンションが上がってしまう。
「……ペンギンを見上げる日が来るとは思ってなかったな」
「そうだねえ……」
変わった形の水槽で泳ぐペンギン、それを見上げる俺とちとせ。
水槽の向こうには高層ビルも見えて、よくわからない光景である。
他にも、コツメカワウソ(かわいい)や、アシカのショー(楽しい)もあって、思っていた以上に楽しい。
何より、ちとせとの外出自体が久しぶりで、そういった意味でも、はしゃいでしまっているような気がする。
……もう1人いる事だけは心外だが。
一通り見て回った後、俺たちはカフェでお茶でもという事になり、水族館にあるタリーズにいた。
ちとせがお手洗いに行ってしまい、あの男と2人きり……なんてことだ。
「こじんまりとしてましたけれど、いい水族館でしたね」
「そうっすね」
俺相手にも、ちとせと変わらないスマイルを向けてくる。
今日ずっと一緒に行動してても、読めない奴だな……というのが正直なところだった。
「そういえば」
そう言うと、続いて驚きの発言が投げられた。
「……先日は、楽しい時間をありがとうございました、アイさん」
バレてたんかい。
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