第4話 強引な男
昼過ぎ、目を覚ましたアタシは、LINEが来てるのに気づいた。
「あら、りっくんから?めずらし」
りっくんこと工藤陸くん。彼は、ちとせのお兄ちゃんである。
「ブリが1匹あるから、食べに来い」
アタシの都合なんて聞くこともない、直球かつシンプルなメッセージ。いつもこうなんだから、と呆れつつ、強引な男は嫌いじゃない。アタシってチョロい女よね。
ま、今日明日とお休みだから暇なだけなんだけどね。ふふふ。
軽く身支度を整えて、徒歩5分の場所にあるちとせたちの家に向かった。
インターホンを鳴らすとすぐ、ちとせの声。
「葵ちゃんいらっしゃい!玄関の鍵開いてるから入っちゃって」
「はーい、お邪魔しまーす」
アタシは庭を通り、玄関ドアを開ける。学生の頃はしょっちゅう入り浸っていたので、勝手知ったるなんとやら。
特に案内されなくとも、真っ直ぐリビングに向かい、ソファに座る。
「よお葵。久しぶり」
「あ、りっくん!久しぶり!元気?」
アタシを呼びつけたりっくんが、顔を出す。ブリをさばいてる途中なのか、包丁を持ったまま。危ないぞ。
「さすがにちとせと俺だけじゃ食いきれんから、葵が来てくれて助かった」
そう言うとキッチンに引っ込んでしまった。暇だし、と思ってアタシもそのあとを追った。
「なんか飲み物もらっていい?」
「おう、冷蔵庫の好きに飲んでいいから」
アタシは冷蔵庫をのぞき、大量のビール缶にドン引きする。
「ビールしかないじゃん!馬鹿なの?」
「あんだよ、それ歳暮でもらったやつだよ!俺もちとせもそんなに飲まないから、片付くのに時間かかんだよ」
「なーんだ、じゃあ半分くらい引き取ろうか?」
「おー、持ってけ持ってけ」
「おけ、帰りにもらってく。あ、コーラ発見!」
奥にコーラ缶を見つけて、それを手に取った。
缶を開け、壁にもたれながら、ブリを捌くりっくんの背中を見ていた。
「りっくんって魚捌けるんだ?」
「ん?できるよ。寿司屋行くより自分で捌いて握った方が腹一杯食えると思って。自己流だけどな」
「腹一杯って、育ち盛りかい」
「おうよ、まだ身長伸びてんだぜ」
「まじか」
28歳になっても成長期かよ。
「今日は、刺身だろ、鰤しゃぶだろ、カマは塩焼きにするか……煮付けも捨てがたいな。葵、なんかリクエストあるか?」
「えー?そだな……じゃあ、寿司握ってよ、寿司の気分!」
「寿司かよ!しょうがねえなぁ」
なんだかんだ言いつつも、りっくんはいつもお願いを聞いてくれる。
……ま、本当のお願いは言えないけどね。
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