第2話 男と女のデスゲーム

 そもそも、とアタシはちとせに対して怒りをおぼえていた。


 あの子は、自分が異性から恋愛対象として見られるという事を全く想像してない。

 愛されなくて当たり前、そんな事が起きるわけない、魚が肺呼吸するわけないでしょ?みたいなレベル。

 結論、警戒心が足りなさすぎる!


「アイさん、2番テーブルお願いします」


 黒服に声をかけられたワタシは、2番テーブルを目指すと、お目当ての男の姿を認識して、思わず舌舐めずりした。


 ヘルプで呼ばれたアタシは、席に着くと、いつも通りの接客をそつなくこなしていく。

 隣にはあの男がいる。

 こんな早くチャンスが巡ってくるなんてねえ。日頃の行いの良さが表れてるわ。


「アタシ、手相見るの得意なんですけど、よかったら試してみません?」

「本当ですか?じゃあぜひ」


 アタシは、あの男からなんとか情報を引き出すべく、占い師となった。手相の知識は、ない。


「じゃあ手を失礼」


 そっと男の手を取り、優しく手のひらを上に向ける。一応お客様だから、そこはちゃんとするわよ。


「あらあ……もしかして最近、恋愛関係で何かいいことありませんでした?」

「えっ、すごいですね、よくお分かりで……実は、初恋の人と偶然再会して、デートしたばかりなんですよ」


 デート!こいつデートって言った!

 ……ふふ、でも残念でしたぁ、ちとせはお友達としか思ってませんよーだ。


「初恋!まあ、素敵!どんな方なのかしら……久しぶりに再会して、デートされるってことは、昔と変わらずに素敵な方だったんでしょうね」


 頭の中でちとせの事を思い浮かべながら話したせいか、褒め言葉がすらすらと出てきてしまう。


「ええ、僕が思い描いていたより、更に素敵な大人の女性になっていましたよ。思わず、再開したその日に求婚してしまいましたよ」


 きゅ……?


「きゅうこん?あの……チューリップの?」

「そうそう、綺麗ですよね、ってなんでやねん!」


 なんだ意外とノリがいいなこの男。

 て……いや待て?球根じゃない?

 ……こ、婚を求めるやつかあ!!!


「いやあ、さすがに断られましたけどね。

 ……でも、いつかはそうなるといいなあ」


 は……はあああああ!!!???

 性欲丸出しの表情でとんでもないこと言いやがったなこいつ!

 今すぐこの氷を頭からぶっかけよう、アタシの手は思わずアイスペールを掴んでしまう。

 いや……だめ、だめよ……ワタシは夜の蝶、本音を隠してキラキラ笑顔で輝くのよ?


「まあ、お熱いこと。でも、お相手の気持ちもありますから、くれぐれも暴走しないよう、気をつけてくださいねぇ」


 ああ、こんな男今すぐ埋めてやりたい。


 そんな内心敵意でいっぱいのアタシだったけれど、そんなアタシに一瞬だけ、挑戦的な表情を見せたような気がした。


「強力なライバルもいるようですし、負けられませんから」

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