第12話 貫け!サンダードルフィン!

 サイゼを後にした我々、次に向かう先は……。


「わあ……観覧車ぁ……」


 丸の内線の車窓から見える観覧車に、私の胸は躍った。

 本当は、篝さん(どう言う字を書くのかやっと聞けた)は次に行く場所を色々と考えてくれていたのだけれど、私がどうしても行きたい場所をリクエストしたのだ。


 休日に出かける友達がいない私が、ひとりでは恥ずかしくて行けず悶々としていた場所……そう、遊園地!

 入場料がかからず気楽に立ち寄れて、都心から離れていない……なのに観覧車もジェットコースターもある……まさに理想の遊園地、東京ドームシティに私たちは向かったのである。


「わがまま聞いてもらってありがとうございます……こんな機会じゃないと絶対に行けない!と思ったら、いてもたってもいられなくて……」

「いや、ちとせが行きたい場所を言ってくれて助かりました」

「逆に、篝さんは、嫌じゃなかったです?遊園地なんて子供っぽいし……付き合わせてしまうのも申し訳ないかなーと」

「ふふ、実は僕も、少しわくわくしているんです。あのジェットコースターなんて……すごく楽しそうじゃないですか?」


 彼が顔を向けた先には、なんと建物を突き抜けて走るジェットコースターが。


「ですよね……あれ……もうずっとずっと乗ってみたくて……」


 思わず唾を飲み込む。そう、あのジェットコースターに乗りたいと思ってから早何年……とうとうこの機会が訪れたことに、私の胸は高鳴りを抑えられない。


「は……はやくいきましょ!待ちきれない!」


 居ても立っても居られない、私は篝さんの背中を押して急かしてしまう。

 そんなはしゃぐ私を、彼は仕方ないなあという表情で見ていたなあ、と後から振り返って思い出す。


 ジェットコースターはなかなかの待ち時間だった。それでも、話題が尽きて気まずくなる事も全くなかった。篝さんの話術というか、私から話を引き出すのがとても上手だったおかげである。


 そうして、長い時間並び続けた念願のジェットコースターは……ほんと……ほんっとうに……楽しかった!!!


 その後も、いくつかのアトラクションに挑戦して、楽しい時間はあっという間、最後は観覧車に乗っておしまいにしようという事になった。


 外はすっかり暗くなって、観覧車の中からは、照明や街並みがキラキラと輝いて見える。

 言葉にすると陳腐になりそうで、ただ黙って外を見つめていた。私は一度何かに気を取られると、他のことにまで気が回らなくなるクセがあるのだ。


「……!」


 正面にいたはずの篝さんが、私の隣に座ってきた事に気づき、驚いてしまう。


「びっくりした……急に……どうしたんですか?」

「ちとせが見ている景色を、なるべく同じ所から見てみたくなって」


 そういうと篝さんは、私の顔のすぐそばまでその顔を近づけてきた。

 私は、篝さんの言葉を疑うこともなく、なるべく同じ場所から見たかったのかあ、と、そのまま窓の外へ視線を戻した。


「……ちとせは無防備ですね」

「そうですか?あ!ジェットコースターが観覧車くぐりますよ!すごい!」

「……はあ」


 ため息をついた篝さんだったが、私にはその意味もよく分からず、そのまま地上までの短い時間を堪能したのだった。



「今日一日、本当にありがとうございました!」

 駅での別れ際、私は深々とおじぎをした。嫌な顔もせず付き合ってくれた篝さんには感謝しかない。


 せめて最寄り駅まで送りますよ、と言われたものの、そんな気を使ってもらえるような人間でもないので、そこは固くお断りした。

 すっごく残念がっていたように見えたから、じゃあお言葉に甘えて……とは思ったけど、いやいやこれ以上は申し訳ないの気持ちが勝った。


 私は池袋方面。篝さんは反対の荻窪方面。

 丸の内線ホームで、向かい合うように電車待ちをする私達。

 ニコニコとこちらを見る篝さんに、なんともモニョモニョした気分になり、LINEごしに会話を投げかけた。


「今日は本当に楽しかったです!」

「私ばっかり楽しんでいたらごめんなさい」


「僕も楽しかったですよ」

「なによりちとせが楽しんでくれた事が本当に嬉しい」


「ならよかった!」

「でも次は」

「篝さんがやりたいことにお付き合いしますから!」

「何したいか考えておいてくださいね」


 そこで、私の方の電車が到着した。

 電車に乗り込み、窓から篝さんを見る。おじぎをして、手を振ると、彼も振り返してくれる。

 電車が発車し、その姿が少しずつ遠くなっていき、完全に見えなくなった。


(こんなに遊んだの、いつぶりだろう)


 楽しくて、今日あった事を振り返り、噛み締めていると、篝さんからLINEがきた。


「では考えておきますね」

「そうそう」

「ひとつ心残りがあったな」


 なんだろ?と思った私の目に飛び込んできた文面に、思わず吹き出してしまった。


「実は僕」

「31のアイスが食べたかったんですよ」


「じゃあ次は一緒に31ですね!」


 シェアしたら、季節のフレーバー制覇もいけるかな?


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