第11話 糖分で記憶は蘇らない
デザートのトリフアイスクリームを食べ終え、さすがに食べすぎたかな……と反省した時のことだった。
「お願いがあります」
妙に真剣な顔で言われるもんだから、なぜかおかしくて吹き出してしまった。
「ごめんなさい、なんかおかしくて。で、お願いとは……?」
「僕のこと、萌黄と呼んでほしい」
お金を借りたい、くらいの真剣さで言われて、また吹き出してしまう。ダメだ、さっき飲んだワインがちょっと効いてるぞ。
「なんだそんなこと……でも、まだ私の気持ちが、下の名前を呼ぶまでに至ってない気がするので……ごめんなさい、しばらくは上の名前で」
そうかあ……としょんぼりするかがりさん。
「あ、でも、私のことはお好きにどうぞ?」
「本当!?じゃあ、ちとせ……と呼んでも?」
「なんだか照れくさいですけど、はい、ちとせでいいですよ……って、あれ?私、名乗ってましたっけ?」
思い返してみても、私は一度も名乗っていない気がする。
「前に言いましたよね?僕はずっと昔、ちとせと会ったことがあるって。工藤ちとせ、僕にとってずっと忘れられない大切な女の子です」
言うことがいちいち様になるよなぁ……美形ってすごいなぁ……などと関心してる場合じゃない。
「前に言いましたよね?私は全くおぼえてないんです。一体私は、いつ、どこで会ったのでしょ……?」
その問いに、かがりさんは素敵な微笑みとともにこう返したのだった。
「秘密です。頑張って、思い出してほしいな」
「……が、がんばれる……かなぁ?」
これは、可愛くなるより難しそう。
私の脳細胞よ、蘇りたまえ。
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