第9話 シシリー風か、ミラノ風か

サイゼは安い。そして結局高い。


「小エビのサラダにタラコソースシシリー風……いやミラノ風ドリアも捨てがたい……前者ならガーリックトーストも付けたい……ワイン飲むからドリンクバーはいらない……?いやでもこういう時にしかメロンソーダ飲めないからなぁ……ああ食後のデザートもラインナップ多すぎ!ここは天国なの地獄なの!?」


メニューを何度も行ったりきたりめくりながら、ぶつぶつとつぶやいてしまう。

よし決めた!と顔を上げたとき、向かいにいるかがりさんの姿を見て、我に返った。


「あ……あ……あの……すみません……」


なんて恥ずかしい姿を見せてしまったのだろう。

いつもひとりでしか来ないからって!ばか!私のおバカ!


「いえ、僕のことは気にしないで。可愛らしいですよ?」


ニコニコと楽しそうな顔で、サラッとすごいこと言ってきた。

でも、私は、そういう言葉がお世辞であると知っている。


「いや……美人にそんなお世辞言われると、逆に傷付きますよ……」


他の女性なら喜ぶのかもしれないけど、私は褒め言葉を聞いても全く心が動かされない。


そんな私の反応が意外だったのか、かがりさんは若干前のめりになって言った。


「僕は、思ったことしか言いません!傷つけたなら謝りますが、でも、あなたを可愛いと思う気持ちは本当なんです!信じてほしい……」


そして、メニューを持つ私の手を、横からそっと握ってきた。

私は固まってしまう。


「わ……わかりました……だからその手……離して……」

「いや、離しません。今から僕が言う言葉を復唱して下さい。『私は可愛い』……はいどうぞ」

「い、いやいや、そんなの、恥ずかしい!」

「恥ずかしくなんかない。あなたは可愛い。僕にはそうとしか見えない。だから自信を持って!はい復唱!」


な……なんだこれ……どうしてこうなった……。


「ほら、言ってください!『私は可愛い』と!」


その時、かがりさんの瞳が、怪しく輝いたように見えた。


「言わないなら、態度で示しますよ?」


するとかがりさんは、私の手からメニューを取り、横に置くと、私の手を自分に寄せて、口づけしてきたではないか!!!

しかも、私を上目遣いで見ながら!!!


ぎ……ぎぃゃああああああああああああ!!!


「な、なんてことを……」


手に、手に……口づけの感触が……!!!


「あなたを可愛いと思ったこの気持ちを、表現したまでです」

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