第6話 凡人見本市
あれからかがりさんと私は、LINEでのやり取りを続けていた。
あんな美貌を持つだけあって、どうやらかがりさんは芸能関係の仕事をしているそうで、「今日はこんなお仕事しました!」という話題と共に、あまりテレビを見ない私でも知っているような有名人とのツーショットが送られてきたりした。
凡人の見本市であろう私には、一生立ち入ることのない世界……という感想しか出てこない。眩しすぎて直視できない。
かがりさんからは、私の日常も知りたい、とはしつこく言われたが、どこにでもいる普通のOLの日常なんて面白くもなんともないので、無難に美味しかったものや綺麗な風景の写真だけ送っている。
でもスタンプやたらと返ってくるのが少し面白くて。愛してますとか紛れてるけど、使い道間違ってません?
普段、誰からもLINEが来ないので(言って悲しくなってきた)、やたらと通知がくるのも新鮮で、戸惑いもあるけれど、楽しんでいる自分がいることも確かだった。
そして、ある日、美味しいものでも食べに行きましょう!とのお誘いに、芸能のお仕事してる方の美味しいとは……という不純な動機もあり、ノコノコと乗ってしまったのであった。
あーるー晴れた昼下がり、とドナドナのようなシチュエーションで、私は待ち合わせ場所に来た。
辺りを見るが、かがりさんの姿は見当たらない。まだ5分前だし、私が先に着いたのかな?
スマホで時間を確認していた私の前に、人の気配を感じて、顔を上げる。
するとそこには、過剰なイケメンが立っていた。
誰?と思った瞬間、思い切り抱きつかれた。
「お待たせしました!」
「いやあなたのことは待ってませんけど!!!」
今日はツッコミが鋭いぞ自分!
すると、その人は私から体を離し、ニコッと微笑んだ。
「やだ、もうお忘れですか?篝ですよ?」
「あーそうだったんですかぁ、ってあんた男じゃねえか!!!」
まるでお笑い芸人を降霊したかのようなキレに感動をおぼえてしまう。
あ……でも……たしかによく見るとあの美人と同じ顔……。
「ええと、じゃあ、この間は女装していた?それとも今日が男装?」
「ふふふ、どっちだと思います?」
にやにやと楽しそうに聞かれるので、これは何としても当ててギャフンと言わせたい……!
顎周りは、ヒゲの剃り跡もなく綺麗で、女性と言ってもおかしくないけど……喉に目を移すと、女性にはない特徴が表れていて。
「男性だったんですね!うわあ……あの時は全然気づきませんでした……」
よく思い返してみると、あの日は、男性の特徴をカバーするような服装だったし、何より髪も長髪でばっちりお化粧もしていたっけ。
声も、女性でたまにいるハスキーな感じに似て、あまり男性を感じないし。
なんだろう、完全敗北した気分。
女に胡座をかいちゃいけねえんだな……。
「あの日はちょっと友人に頼まれて、撮影があって、それで綺麗にしてもらってたんです」
ああ、だから結婚とか言ってきたのか。
同性で結婚は厳しいだろ!と思ってしまったから。納得。
いや異性でもダメだが。
ええぇ……でも男性だと思うと、急に身構えちゃうな……。
「勘違いされているようでしたし、そのままにしておいてびっくりさせようかな?といたずら心が芽生えてしまって……驚かせてしまってすみません」
「いえいえ、そんなお気になさらず……ってそれより、急に抱きつくのはやめてくださいね!」
今更ながらなツッコミ。まだまだ修行が足りないな。
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