第7話 噛みつく 202204110700

「ほれ、レオンの試合が始まったぞ。」


「おおおレオンが来てるのか。

 オッズは200倍だってよ。

 賭けるか?」


「バカ、俺は賭けねえよ負けるのが解ってるからな。」


「敵はチンパンジー超獣系のゴブリン種、しかも群れだぜ。

 ジェネラルやボブも居る。

 負けで決まりだな。」


皆、観客たちはレオンが負けると信じて疑わないようだ。

魔剣を持っていた軍隊を倒していたのに何で負けると確信しているのか分からなかった。


「あいつは人間相手の駆け引きは、そこらの軍隊に比べれば良い線言ってる。

 でも、野生に関してはもろ弱い。

 だから今学んでいるらしいぜ。」


レオンのいる地形はどこかの森林の中にある遺跡のようだ。

ゴブリンは棍棒やら、切れ味の悪そうな刃物を持っている。

お世辞にも清潔とは言えないスタイル。


レオンの生々しい傷の多さが分かった。


ゴブリンは4足歩行に成ったり、木の上から攻撃を仕掛けたりと縦横無尽の攻撃の数々。

何とか避けているが当たれば致命傷は免れないだろう。

6歳児の身体はそれだけ脆い。

魔武器を受け止めていた力を一切使っていないのは動きで分かる。


なんでしないんだろうか?


「魔術は使わないな。

 アレはそもそも長続きはしないし、ここに来る前になんかあったか?

 また軍隊相手に戦闘したか。

 なら、今日は負けは確実だな。

 医療班に言伝入れてくる。」


ゴブリンを一人を殺し、それに呼応し凶暴化したゴブリンがさらに攻撃を仕掛けていく。

棍棒が当たり始めても倒れることなく、血を流し、拳が壊れて振るえなくなっても、噛みつき蹴り、ずついて、死ぬまでに一人でも多くの奴らを殺そうとする。

カミツキガメと呼ばれる所以は、戦場に前線を食い止めるだけに来た決死隊と変わらないほど、敵に噛みついている。


噛みつき決して逃さない。

一人でも多くの犠牲を出さないために、最低限の犠牲を出す。

敵と自分という名の犠牲を。


スライムの中でそこまで決死に食い止めたものはいただろうか。

合体したスライムでも叶わないときは叶わない。

その時は我先に逃げ出して、蹴落とした奴らだけが生き残れる。


これが......人間。


「お、まだ続いていたか。

 医務室の人間には今日も死の淵を彷徨うかもしれないとは言ってある。

 人間が皆ああだとは思うなよ。」


周りを見れば、何か叫びリタイアの文字が移る画面もある。


でも、なんて情けない師匠だろう。

逃げれば生きられるのに、生きることよりもかっこつけることの方がいいのか。

6歳の子どもが英雄譚に憧れて、その生き方を背負える奴はただの馬鹿だ。

大馬鹿者だ。

スライムにも英雄譚がある。


合体スライムが魔王を倒す物語だ。

でも、もう一つ語り継がれる英雄譚がある。

一つで勇者とその背後の主神を倒すモンスターにとっての英雄譚。


誰も信じやしない。

幼いころは信じたけど、もう信じられない。


だって、今の自分が神に叶うわけがない。

あるはずのない物語に憧れ続けるほど、馬鹿で情けない物語があってたまるか。


結局、レオンは負けた。


「医務室に行くか。

 多分迎えも来てるし。」


「スラ?」


医務室に言うがまま連れられると、白衣を着た人以外に誰かほかにいた。


「また、レオンは無茶をしたのか。

 どうにか辞めさせられないのか?」


「無理だな。

 おめえさんも親として思うところあると思うが。

 無理なもんは無理だ。

 才能が無い奴が一番持っちゃいけねえ才能持ってるんだ。

 諦めろ。」


「スラ?」


親?

一応あってるはずなのにいつもの冷たい視線が無い。

むしろ温かい目で見ているのだから、誰かわからなかった。


きちんと親の顔はするんだな。

スライムだからわからないけど。

あったかい顔って、レオン以外だと初めて見た。


「わかった。

 今回はゴブリンか。

 てっきり、スライムであるお前さんを戦わせるのかと思ったが違ったみたいだ。

 レオンが起きるまで愚痴を聞いてはくれまいか。」


別室に移るとレオン父は酒を注ぎ始めた。


「私はこの国境街東の国の顔役をやっているのだが、レオンがこの街に来たことを知ったときは驚いた。

 紋章を私は消させようとしていたのに一切聞かなかった。

 その日は大いに荒れたさ。

 妻も、泣いた。

 そしてレオンは家出してな。

 ここの病室のベットで、眠っていることを知ったよ。」


酒を煽り、レオンについてどれだけ心配させられたかを教えられていく。


紋章を消さないのに一向に契約するスライムを決めないものだから、捕まえに行こうとしたら、先に断られたり。

何度も命に係わる怪我をしているのに、懲りずに挑む。

まだ、ラグナロクには転送システムがあるから死なないとは思うが、それでも親としては心配でしょうがないらしい。


それと紋章を持つ前日にスライムを連れてきたことを知った。

自分とは違う個体だったらしい。

でも、その日に死んでしまったと言った。

今思えばアレは運命だったのかと、スライムのために人生を捧げるための天啓だったのかもしれないと言っている。

冷たい顔をしているのは、今までのことを後押し、信じてやれなかった負い目があるらしい。


それと全く関係ないと思うが、最近娘たちばかりレオンに構っていてずるいと思うし、自分も娘たちに構って欲しいと思っているって言われた。


「レオンは、あの契約は対等なものでありたいと言っている。

 だから、契約した君も対等な関係を気づいてやってくれ。

 ダメなら意見を言えばいい。」


なら、稽古の量を減らせないかと相談できないかと思っていたら顔に出ていたのか苦笑いされた。


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スライム道

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