第2話 姉 202204070700
「また、レオンのやつが変なことしてるぞ。」
年老いたスライムと契約してから、彼らは稽古に励んでいた。
そこそこ締った芯のある巨木にロープを括り付けて、その上で拳闘をしている。
横から見れば遊んでいるようにしか見えないが、生傷の絶えない跡がある。
「紋章がスライムだったからやさぐれてるんじゃないかな。」
「そりゃそうだな。
今度、慰めてやろうぜ。」
案外、村の子どもたちは暖かだった。
でも、稽古をしている本人たちからすれば、いたって真面目も大真面目。
彼らは今、死闘をしている。
「おい、お前、ここが剣山だったら死んでるぞ。
今は生傷で済んでいるが、もし崖の上だったら、もしも灼熱のマグマが燃え滾る火山の上だったらお前の命はねえ。」
スライムの稽古は今までやったことがないようなものばかりだった。
このロープの上でバランスを取る稽古も末恐ろしい。
剣山に見立てた無数の枝が突き刺さっている。
むしろ剣山よりも致命傷になるのではと思うほど折れたりしてささくれが突き刺さり、痛い。
師であるレオンは悲鳴を上げることはしないが、自分よりも痛そうな傷がアリアリと見受けられる。
血も沢山出ている。
それでも、尚立ち続ける。
自分よりもバランスがとりづらいのか何度も転んでもロープの上に立ち続けている。
遥か高みに向かっている。
最初にあったとき、自分と同等だと思ったのが馬鹿らしいほどに、レオンは自分よりも高みに居た。
群れて強くなったスライムとは相反する行動。
「スラスラ.......」
「どうした!弱音を吐けるのか。
俺もお前も何十回って死んでるんだぞ。
弱音吐く暇あったら、少しでもバランスとって生き抜け!」
なんとか、ロープの上に立てばそれだけ揺らして攻撃を仕掛ける。
キックだったり、パンチだったり、肘鉄、膝、頭と様々。
どこから攻撃が来てもおかしくないくらいばらばらに攻撃されてはロープから落ちてしまう。
もうやりたくない。
逃げようとすると。
「こら、どこに行こうとしてるんだ。」
すぐに捕まってしまう。
「俺ばかり攻撃してきてずるいって思うのか、なら攻撃して見ろ。
防御だけしてやる。」
そういって今度は攻撃をさせてくれるが、それでレオンがロープから落ちたことはほとんどない。
むしろ自分が落ちるだけ。
レオンはロープに乗るのは下手で、よく落ちるが一度乗れば、ほぼ無敵。
「次を見ろって言ってるだろ。
相手が行きたがっているところを邪魔しないと意味がない。
でも、これである程度はわかっただろ。
飯にするぞ。」
ごはん!
レオンの作るごはんはとても美味しい。
それだけが唯一の救い。
スライムは合体しない限り、軟食だ。
骨なども食べれないことは無いがあまり好ましくない。
レオンはその辺りも配慮しつつ、ヨーグルトにゼリー状のアロエ系のモノを混ぜたごはんを食べさせていた。
他にも飽きないように色々な料理を食べさせている。
そのかいあってか、今まで老衰しかけていた身体はみずみずしいまんじゅうぼでぃに生まれ変わっていた。
「スラスラ!」
「よくがっつくな。」
レオンを見ると木の根を齧っている。
他にも、森で取ってきた豆や山菜など、食物繊維が多く固い食べ物を多く食べていた。
いつも思うが何でレオンはこのような貧しい人が食べるようなものばかり好んで食べるのだろうか。
レオンの家族たちはもっと柔らかいものを食べていた。
彼だけが固くて不味い、貧民が食べるようなものを食べていたが自分のようにいじめられているのだろうか。
これまで、群れて暮らしながらも他人は自分と同じ考えを持った仲間しかいなかったスライムは、師となったレオンの状況を考えていた。
レオンとその家族との会話もほとんど聞いたことが無かったし、家族仲が悪いのだろうか。
「レオン!」
「スラ!」
「ん?
ルナ姉さんか。
どうした。」
「また、そんなのモノ食べて。
きちんとした食べ物食べてってお母さんたちが言ってたじゃん。」
「これも立派な食べ物だろ。」
ぷんぷんという擬音が聴こえてきそうなレオンの姉の一人、ルナ。
黒い髪を持つレオンとは異なり、白銀の神々しい髪をしていた。
それに加えて透き通った青い目。
将来優れた容姿になることを確立された彼女は神代の紋章、天使の紋章を持っていた。
レオンからすれば気に食わない存在。
周囲の目は優れた姉と劣等感あふれる弟にしか映らない。
そのことが分かっているのか、レオンはルナから話しかけられてもうんともすんとも言わないし、家族との食事も自分で採ってきたものしか食べていなかった。
下手な優しさは返ってない方が良い。
自身の群れがそうであったように、もう使えないと判断された自分と同じように切り捨ててくれた方がよっぽど優しいことを彼女は知らない。
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スライム道
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