第11話 それから
私はお姉さんと別れた後、ある考えを行動に移した。それは美大に通うということだ。もちろん両親とはもめにもめた。
「今の大学はどうするの」
だとか
「美大に一体何をしに行く気なんだ。まさか芸術家になろうとでも? ああいうのは才能があら一握りの人間がなれるものだ。お前にその才能はあるのか?」
だとか、他にもたくさん言われたが、それはもう烈火の如く詰められた。
それでも何を言われても引かなかった。
独学で絵を描いているうちに、もっとたくさんの表現方法を知りたくなったのだ。独学では限界がある。だから、専門的に学びたいと思った。それをずっと両親に伝えた。
結局諦めない私と諦めさせたい両親の話合いは妥協点を見つける方向に動いたのだ。
もちろん両親の言うことが全て間違っているとは思わないし、その点については同意した。それでも私は美大で学びたかったのだ。
話し合いの末、いくつかの条件をクリアすれば、美大に行くことを許してもらえることになった。
一つ目は、今の大学は入った以上きちんと卒業すること。
二つ目は、一度は社会に出て経験を積むこと。
三つ目は、美大に通う学費は少しは援助するが、自分で稼いで準備すること。
この三つをクリアできるのならば実家暮らしで美大に通って良いということになった。
大分私に寄り添ってくれた結果になったと思う。私の想いが伝わったのなら幸いだ。
それから私は、今の大学に在学中の時からバイトを始めてお金を貯め始めた。最短で卒業するため、授業も単位を落とさないように今まで以上に真面目に頑張った。
2年生、順調
3年生、同じく順調。
4年生、卒論で発狂しかける。
同じゼミの仲間たちも
「文献が見つからん」
「寝る前気づいたら文章考えてる。根拠になりそうな論文とかまだ見つかってないのに」
「テーマが永遠に決まらない」
「文章書くのもうやだ」
「文献読みすぎて文字読めなくなってきた!」
「今から叫んでいい?」
最終的にみんな進みが良くなく、提出直前1ヶ月前くらいから、みんなで教室を借りて自主的に缶詰した。互いが逃げ出さないように見張っていたのだ。
こんな感じで卒論には大分苦労したが、なんとか卒業。もちろん卒論を書きながら就活もして、内定も勝ち取った。死ぬかと思ったけどその時死ぬわけにはいかなかった。まだ目標までたくさん先があったからだ。
そして会社で働いて、お金を貯めて、ついでに会社の寮だが、一人暮らしも経験して。様々な経験をして、たくさん仕事をして。
美大に入るために通う予備校の学費、その間の生活費、そして美大に通うための学費などなど、ついに目標金額を貯めることができたのだ。
でもまだ美大で学ぶには最大とも言える壁が残っていた。そう。入学することだ。試験に合格できなければそもそも美大で学ぶことはできないのだ。
描きたい絵のためにあまり描きたくない苦手な構図を描いて、好きな絵も描いて。この1年は絵画漬けの日々だったと思う。
ここまで来るのにお姉さんといつ会えるかわからなくなってから、約8年も経っていた。
その後美大も卒業したが、絵で食べていきたいわけでなく、趣味で描く絵の表現方法を知りたかっただけだから、また絵画とはあまり関係のない定時で仕事が終わる会社に再就職し、仕事4、趣味6くらいの人生を送っていた。
定時で帰れるけど、それまでに仕事を終わらせなければいけないから繁忙期なんか例外もあり、その間はあまり絵を描く時間を取れなかったりするが着実に作品は増えていった。
描く作品はどれも同じテーマだ。
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