第2話 噴水広場での再会

 あの日から数日間、散歩にはいけなかった。踊っていた女性と会ってしまうのが怖かったのだ。しばらく家に籠っていた。春休みで学校は休校だから、社会の活動の中では問題はなかった。


 だが、家に籠ってばかりいると、思考もこもり始めて、行き場のない思いだけが自分の内で膨張し、破裂しそうになる。だけど私はその発散の方法を今は持っていないのだ。


 いつまでも籠ってこもっていては、自分の精神にも体にも悪いと思った。だから思い切ってコースを変えて散歩に行くことにした。勿論あの妖精のような優雅な女性と出会った並木道は通らないようなコースだ。


 女性はあんな夜明けの時間帯をわざわざ選んで踊っていた。人に直接見られたくなかったのかもしれない。それを凝視してしまった私は、女性とまた遭遇してしまったときの気まずさと申し訳なさを考えると、もう一度遭遇してしまう可能性のあるあの道を通ることにためらいを覚えたのだ。


 また夜明け前の静けさの中を一人淡々と歩く。あの日と同じように桜の花が散る中、あの日とは別の道を歩く。しばらく街灯があたりを淡く照らすばかりでほとんど夜の闇が周囲一帯を包んでいたが、どうやら日の出の時間になったのだろう。


 太陽の光が、街灯よりも強い力であたりを照らし、心地よい暖かさとともに夜の闇は消え去り、周囲の様子が眩しい中にもはっきりと見えるようになった。


 少し遠く、まっすぐ前を向くとその視線の先には噴水広場が見える。私は水が湧き出しては、水面に戻っていく音を聞きながら徐々に噴水に近づいた。当たり前のように夜明け近くのこの早い時間帯の人はいない。並木道で舞い踊っていたあの変わり者の女性のような者がいない限りは。そう思っていた。


 油断して噴水の横を通りすぎようとした時、人の声がした。


「あれ、この前のお嬢ちゃんだ。また会ったね。こんな朝早くにお散歩?」


「ひっ」


 自分が話しかけられているのかと驚いた。だけど、周りを見回しても声の主である女性と自分以外いないし、その声も聞き覚えがあった。忘れられるわけがない。数日前、並木道で出会った女性だ。


 前回で出会ったときは、ふわふわしたフレアスカートに、上品なブラウス、緩やかに編まれた髪の毛といった優雅で、まるでどこかいい家で大切に育てられたお嬢様といった出立だった。


 今日はダンス用のスウェットパンツ、胸の下あたりまでの小さめのトップスに身を包み、以前ゆるく編まれていた髪の毛は頭の高い位置できつく結ばれ、腰のあたりまで垂らされた髪の毛は柔らかな波を描いている。


 高校のダンス部員や、趣味でダンスを行う人が練習するときのような格好だ。前回の優雅さ、上品さとは打って変わって、クールさ、力強さを感じる。


「あはは。そんなに怖がらなくてもいいよ。私はあなたに怖い事する理由なんてもってないし」


 女性は楽しそうに笑ってそう言った。


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