第4話・夜の街での出会い
「ねぇ、彼女」
「え?」
ぽん、と肩に手を置かれ、灯里は驚いて震え上がった。
「彼女、一人?」
「俺らと遊ぼうよー」
灯里がおそるおそる後ろを振り返ると、不良ぽい男が三人、ニヤニヤとしながら灯里を見つめていた。
「ねぇ、彼女……今、一人なの?」
「彼女、すごく可愛いね。おっぱいも、大きいし」
男たちの視線は灯里の胸に注がれていた。
灯里は慌てて胸の前で腕を交差させ、胸元を隠そうとした。
外出する予定はなく家で寛いでいたため、キャミソールに軽くカーディガンを羽織ったままで外出してしまった灯里の胸元は、大きく開いていた。
「なぁ、俺らと花火見ようよ。いい場所、知ってるんだ」
男の一人がぺろりと唇を舐め、言った。
身の危険を感じた灯里は首を横に振り、
「わ、私、よ、用事がありますのでっ」
と言って、先程当麻の使いの女を振り切ったように不良たちから逃げようとする。
だが、灯里一人に対して男たちは三人だった。
声を上げて誰かに助けを呼ぶ間もなく灯里は囲まれてしまい、少しずつ人気のない場所へと連れ込まれてしまう。
「さ、行こうか。すぐそこだから」
「そうそう、行こうぜ、すごくいいとこ」
「いいとこっていうか、いい事してあげるからね」
「や、やだっ……」
灯里は逃げようともがいたが、両脇から腕を掴まれ動けなくなってしまった。
残った一人が灯里の前に立ち、両手を塞がれて隠せなくなった胸へと手を伸ばす。
「すっごいデカイよねぇ。たっぷり楽しめそうだ」
「やだ、誰かっ」
男の手が自分の胸元に伸びてくる恐怖に、灯里は両脇から押さえつけられながらも必死に身体をよじった。
だが、それは逃れられない上、豊かな胸を揺らして男たちをさらに喜ばせただけだった。
こんな事が起こる可能性も考えて、聡や和利は灯里に家に居るように言ってくれたのだ。
だけど、あのまま家に居たら、当麻が押しかけて来てしまったかもしれない。
じゃあ、どうすれば良かったのか。
わからない。でも、誰か、助けて。
その時――。
「おい……」
低い、別の男の声が聞こえた。
「お前ら、何してんだ」
「なんだぁ?」
突然現れた別の男は、灯里の胸に手を伸ばそうとしていた男の肩に手を置くと、先程よりももっと低い声で言った。
「お前ら、誰の女に手ぇ出してんだ?」
そう言った男は、目深にキャップを被っていて、灯里を囲んでいる不良たちと比べ物にならないくらい体格が良かった。
「て、てめぇ、なんなんだよっ」
灯里を囲んでいた男たちは、灯里を放し突然現れたキャップを被った男に対し身構えた。
キャップを被った男は唇の端を吊り上げてニヤリと笑うと、不良たちの間に割って入り灯里の手を掴んで強引に連れ出した。
「走れ!」
「きゃあっ!」
その言葉のまま、キャップを被った男は灯里の腕を引いて走り出す。
男は足が早く、灯里は転びそうになってしまったが引っ張られるままに必死に走った。
「この野郎っ!」
灯里を囲んでいた不良たちは最初追いかけて来たが、角を二つ曲がったところで追いかけてくるのを止めたようだった。
「あ、あのっ……」
三人の不良たちから逃れる事が出来たが、キャップの男は灯里の手を放さず、走るのは止めたものの足を止めなかった。
この男が灯里を助けてくれただけなら、もう手を放してくれても良さそうなものだ。
自分は今、先程の三人の不良よりももっと危ない男に手を引かれているのではないだろうかと、灯里は不安になった。
「あの、た、助けてくれて、ありがとうございます……。でも、あのっ……は、放してくださいっ」
今自分の手を掴んでいる男が怖かった。
この男は誰なのだろう?
何故自分を放してくれないのだろう?
どこへ行くつもりなのだろう?
「あ、あのっ……お、お願いですからっ……」
放して、と震える声で必死に訴えると、男は足を止めた。
「古城、俺」
男はそう言うと、まだ灯里の手をしっかりと握ったまま灯里へと顔を向ける。
灯里はわけがわからず首を傾げて男を見上げた。
男は苦笑すると、
「俺だよ、古城」
と言い、灯里の手を放した。
「古城、俺の事、わかんねぇ?」
「え?」
少し冷静になった灯里は、男の顔を見つめる。
「もしかして……」
先生? と言いかけた口は、大きな手で塞がれた。
「おい、ここで先生とか言うなよ。俺、今日は完全にオフだからな。今日は先生はお休みだ」
そう言って、ニヤリ、と笑ったのは、尊だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます