第2話・気絶する生徒
この学校に異動してきて最初の一ヶ月は、尊は古城灯里の可愛い笑顔を見る事が出来なかった。
笑顔どころか、古城灯里は尊を見るだけで真っ赤になって気絶してしまうという日々が続いていたのだ。
ちなみに最初に彼女が倒れたのは、尊が講堂で小野田学園長に紹介された直後だった。
尊が紹介された直後、女子生徒たちが騒ぎ始め、その後おかしな感じにざわめき始めた。
何事かと壇上を降りると、一人の女子生徒が真っ赤な顔をして倒れていて、それが灯里だったのだ。
彼女はそれからも尊を見ると真っ赤になって気絶を繰り返した。
保健医に確認したが、古城灯里は特に身体が弱いというわけではないらしい。
では、彼女の気絶は一体どういう事なのか。
身体に異常がないのなら、問題は尊の方にあるのではないか?
「もしかしてお前、あの大人しい優等生の古城灯里に何かをしたのか?」
小野田学園長にそう問われ、尊は頭を抱えた。
例え尊に問題があったとしても、自分はこの学園に異動してきたばかりなのだ。
会ったばかりの古城灯里に何も出来るはずがない。
だが、彼女は尊を見るたびに、気絶を繰り返した。
彼女の担任として、このままではいけない。
だが、自分が彼女に嫌われているのだとしても、それが何故なのか全くわからなかった。
一体どうしたものかと日々ため息を繰り返していると、見かねた保健医――幼なじみである時村奈央がアドバイスをしてくれた。
大学時代の先輩である古城聡に相談してみてはどうかと。
古城灯里は、聡の従妹だった。
奈央の助言で、尊は藁にもすがる思いで聡に連絡を取り、灯里の事を相談した。
聡は、最初は尊が大事な従兄妹に何かしたのかもしれないと思ったようだったが、困り果てた尊を見かねて、特別に灯里と二人で話す機会を作ってくれた。
尊が灯里に、自分の事が嫌いなのかと問うと、灯里は真っ赤な顔をしたまま、必死になって首を横に振った。
「わ、わ、私は、先生を嫌ってなんか、いませんっ!」
そう言った灯里に尊はほっと息をついたが、では何故気絶するのだろうという疑問が残る。
「じゃあさ、なんで古城は俺から目をそらすんだ? それに、なんで俺を見て気絶するんだよ」
そう聞くと、灯里は真っ赤になって俯いてしまった。
その様子から、やはり嫌われているのではないかと少し不安になる。
「やっぱり俺の事、嫌いなんじゃねぇのぉ?」
少しおどけたように尊が言うと、灯里は俯いたまま、また必死に首を横に振った。
どうやら嫌われてはいないようだが、彼女はどうしても尊から目をそらしたり俯いたりしてしまうらしい。
せめて気絶するのだけはなんとか止めてもらえないものだろうかと考えていると、俯いたまま首を横に振り続けていた灯里が思い切ったように顔を上げ、言った。
「わ、私は、先生の事が嫌いなんじゃありませんっ! わ、私は昔からずっと先生の事を好きで、大好きで、大好き過ぎて、だ、だから緊張して、嬉しくて気絶しちゃうんですっ!」
「へ?」
「え?」
灯里はそう言うと、もう限界と言わんばかりにそのまま意識を手放そうとする。
尊は倒れそうになった彼女を左腕一本で抱えると、右手で彼女の頬をぺしぺし叩き、なんとか持ちこたえた彼女のその黒曜石のっような綺麗な瞳を覗き込みながら、彼女の言葉を頭の中で繰り返した。
今彼女は、必死になって自分の事を好きだと言った。
とりあえず、尊は本当に嫌われてはいないらしい。
「そうかぁ、古城は俺を嫌ってなかったんだな? 本当に良かった。俺、やっと安心したよ。そっかー、気絶しちゃうほど、古城は俺が好きだったのかー。でもな、俺、やっぱ気絶しねぇでほしいから、これからは気絶しねぇように頑張ってくれよな」
尊がそう言うと、灯里は真っ赤な顔のまま、必死に頷いてくれた。
尊は満足し彼女の頭をがしがし撫でると、久しぶりに飲みに行こうと言う聡と共に灯里の前から立ち去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます