第22話 対決!【黒魔術VS鬼道陰陽道】(特別編)

 命道トモエは上段から最上段に構え直し頭部、肩口、更に刀を横向きに胴体、下から上に向かう切り上げなどありとあらゆる攻撃を繰り出した。

黒き魔女はトモエの全ての攻撃を魔法の「身体強化」を使用「音速越え」の杖捌きで受け止めていたが攻撃の隙をみて自分から仕掛けるタイミングを探っていた。

命道トモエはこの激しい攻撃の間、ほとんど息を止めている。

故に彼女が息を吸い隙が生じる一瞬を待っているのだ。

程なくその瞬間は訪れた。

トモエが攻撃を中断し息継ぎをしようと後退した瞬間に攻撃に転じたのだ。

ファイアーボール、ライトニングボルト、

無詠唱の魔法は最速でトモエに襲い掛かった。

そんな槍のように降り注ぐ攻撃も

命道トモエは見切り軽やかなステップを踏まえて舞うように躱(かわ)していった。

両者とも動きが止まり再度の仕切り直し。

序盤戦は五分五分、2人の対決は始まったばかりである。


 しばしの沈黙が時を支配した。

だが今度は先に動いたのは黒き魔女カトリーヌ・フォン ・ブレルであった。

彼女はレビテーションで空中に浮遊、そこから、「ファイアーランス、ウインドカッター、サンダーボルト」の中級魔法を行使、

更に槍の雨の如く降り注ぐ魔法を軽やかなステップと舞うようにかわし続けるトモエだが

明らかに先ほどとは様子が変わっていた。

「勝機!」と黒き魔女が小声の叫びをあげると幻影秘術【ファントム・ミラージュ(幻影蜃気楼)】と短く詠唱、数十人もの黒き魔女カトリーヌ・フォン・ブレルが出現した。

数十人の彼女は空中と地とを軽やかに舞うように動きその様子は命道トモエのお株を奪いかねない優雅さだった。

「ふわふわ」動き回るのに相反して攻撃は

辛辣(しんらつ)を極めるものだった。

数十人もの黒き魔女は一斉にファイアボール、アイススピア、サンダーブレイクと初級の魔法なれど数は無限に降り注ぐと思われるほどだ。

地にいた黒き魔女は攻撃の有効範囲を逸脱し空中の彼女はそのまま攻撃を続け苛烈を極めた。

そんな中、優雅に舞うようにかわし続けていた命道トモエだったが、流石にそれは崩れつつあり舞うようにかわしながら剣技も交えてなんとか攻撃をしのいでいる印象だった。

「キーン、ガチャーン」と霊刀「菊一文字」は

刀身部を青白く発光させながらトモエに命中しそうな魔法を弾き粉砕していった。

「ズサッ」と足元の僅かな草地を上質な草履で踏みしめたトモエはその場から更に後方に退き、足捌きと体捌きを駆使して体を駒のように回転させみるみるうちに黒き魔女の攻撃範囲外へ退避した。


「ス〜」と元々大きな胸を更に膨らませるように息を吸い込むと命道トモエは反撃の準備を整える。

鞘の上下を反対に峰打ちのかたちで菊一文字を納刀すると前傾姿勢となりいきなり縮地にて数十人の黒き魔女の群れの中に舞い込んだ。

縮地(しゅくち)から抜刀一瞬で黒き魔女数人に命中させたもののトモエの表情が変わった。

「手応えが有る。何故。」

そう残像、分身の類ならば命中した瞬間、

黒き魔女の姿がかき消されるか元に戻るだけで手応えがないはず。

しかしこの数人には姿がかき消える瞬間も

物体を斬り伏せるような手応えがあるのだ。

「ふふふ、あなたには解らないでしょうね。この魔法の正体。」と黒き魔女は風の魔法で増幅され相手に聞こえるようにした声で

嘲笑気味に命道トモエに言った。

そして心の中で(この魔法は質量を持った残像、錬金術の知識と錬金術がある程度は使える私ならではの魔法よ。)


命道トモエは思考していた。


全てが実体であるはずがない。

だが手応えがある。

単なる虚像でもない。

質量を持った残像。

もしそうなら見分けるのは至難の業(わざ)である。

瞬時にそう判断したがこの難局を切り抜ける有効な手段がない。


無論「剣技においてである。」

「GUZE(グゼ)様」と

命道トモエは呟き彼を見たが

静かに沈黙し腕を組み立っている姿は

自分ならば何とでもなるという

自信に満ちた眼光をして

ただただそこに居た。

命道トモエはその姿をみて覚悟を決め長い

後ろ髪の毛を一本「プッン」と指先で抜くと空中に放り「ピシュ〜ツ」と軽めでも

髪の毛を6本に切り分けた音がひとつに聞こえるほどの超高速の刀の振りだった。

次いで懐に手を入れてあるものを取り出した。

折り紙の「やっこさん」である。

合計で6個、それを左手に持ちながら

「どうやらこちらも死力を尽くさねば

あなたの魔法を打ち破れないようです。」

とこちらも言霊(ことだま)で増幅され相手に聞こえるように言いながらトモエは刀を納刀し

「やっこ」さんに先ほどの6本の髪の毛を

一体に一本づつ素早く流れるように入れ


「紫電(しでん)【胡蝶の舞】(こちょうのまい)」と叫ぶと


やっこさん6体を空中に放り青いというより

紫色に近い薄ぼんやりと光る霊刀「菊一文字」を抜刀、刀身から紫色の光が放(はな)たれ

やっこさんズに命中、紫色に光り輝きながら

形状を変えみるみるうちに巨大化しその姿は

命道トモエに瓜二つとなった。

(紫色の輝きがあることを除いて)

「ここからが本当の勝負です。」

とトモエは言霊を最大にして言い放った。


本体を含めた紫色に輝くトモエたち合計7人は

舞うように緩やかに回転し始め、命道トモエを中心にその周りを6人が六角形の頂点に

それぞれ配置されゆっくり回転した。

その間も黒き魔女は攻撃の手を緩めず、

7人のトモエに襲いかかろうとした。

艶やかで豊かな長い黒髪をなびかせながら

命道トモエは他の6人のトモエに指示を与えていく。


「秘剣!投影斬(とうえいざん)!」


6人のトモエは抜刀術のかたちで回転しつつ

黒き魔女自身が作り出した地上の質量を持った残像に急接近し抜刀、次から次へと斬り伏せていった。

黒き魔女が作り出した地上の【ファントム・ミラージュ(幻影蜃気楼)】は次々に消滅していく中、黒き魔女本人は歓喜に震えていた。


GUZE(グゼ)との対決では展開の速さと

実力差から使用することもできなかった

接近戦でも優位に立てる幻影秘術が

まるで舞踏会の舞の踊りの優雅な回転技に倒されていくのだ。

その技の美しさに目を奪われる黒き魔女カトリーヌ・フォン・ブレルは自らも【ファントム・ミラージュ】の奥義を尽くすべく、

中級魔法「ファイアーランス、ウインドカッター、サンダーボルト、」を放った。

単体の時とは比較にならない魔法の攻撃が

土砂降(どしゃぶ)りのように降り注がれていく。


だが7人のトモエは高速回転となり土砂降りのように降り注ぐ黒き魔女の魔法を躱(かわ)しつつ「キーン、ガシャーン」という菊一文字の

金属音をさせながら迎撃、ことごとくを撃ち落としていた。


「こんなことが!」と黒き魔女は目の前の光景を疑った。

勝機と瞬時に判断し勝負を決め

自らの魔法の絶対的優位を示そうとしたのだがこの状況。

彼女は口の端から血が滴るほどに唇を噛み締めた。

もはや一刻の猶予もない。

相手が外見とは裏腹に戦闘力がずば抜けている猛者(もさ)であることは理解できている。

だが今回は殺すつもりで魔法を放(はな)ってよいものか、彼女の中で多少の葛藤はあった。

だが目の前の現実がそれを許さなかった。

全魔法を駆使しなくては勝てる相手ではないだろう。

黒き魔女の中で心は決まった。

「これから私の中の最上級魔法を放ちます。

もし負けを認めるなら今のうちですよ。」

と黒き魔女が言い放っと

「もとより覚悟の上です。たとえ死すことに

なってもお恨み致しません。」と返答した

命道トモエの姿は激しくも美しかった。

その返答を聞いた黒き魔女はレビテーションの位置から更に上空数十メートルへこの間も命道トモエへの攻撃の手は緩めなかった。

「黒き魔女またあの魔法を使うな。

だがおそらくそれでは終わるまい。

仕方がない結界を少し強化するか。」と

沈黙を保っていたGUZE(グゼ)が結跏趺坐(けっかふざ)のかたちでやや生い茂る草原の大地に座り印を結び素早く両腕を真横に広げると

更なる虹色の波動が円形に広がり結界を強化した。

「これでよかろう。」とGUZE(グゼ)はそのまま座り続けた。


黒き魔女は上空で水晶に魔力を収束させ詠唱をした。

「我が前に立ちはだかる愚かなる者を灼熱の炎にて焼き尽くせ、インフェルノ!(灼熱火炎地獄)」

瞬く間に周囲は火の海と化したが何故かGUZE(グゼ)と命道トモエの周りだけ火の海は避けているようだった。

GUZE(グゼ)の周りは不可解な炎の揺らぎでいっこうに彼自身に火そのものが燃え移る気配はなかったが、命道トモエには徐々に獄炎が力を増し彼女自身を燃やすのも時間の問題のように思われた。

「どうです。今からでも降参しては。

寛大にそれを受け入れ炎の海を消し

許して差し上げますが。」と上空の黒き魔女は結界内とはいえ草原や木々にまで燃え移った火の海を見下げながら命道トモエに風の魔法で増幅し聞こえるような声で誇らしげに言った。

「いいえ、たとえ命を落とすことになっても

お恨みしないと言ったはずです。

それに勝負がまだついたとは限りませんよ。」とトモエも言霊(ことだま)で増幅し言い放つと

「紫電烈風!【胡蝶乱れ舞】(こちょうみだれまい)」というトモエ本人が術の鍵となる言葉を口にすると6人のトモエは複雑な動きを始めた。

それを黒き魔女は上空から地上を眺めながら「ハツ」とした。

地上には炎をかき消しながら紫色の胡蝶が

美しく描かれていく。

地上は獄炎に焼き尽くされ殺伐とした光景の中、紫色に光り輝く胡蝶は黒き魔女の心を奪い見惚れさせた。


うっとりして眺めていた黒き魔女が

「ハツ」と我に帰ったのは風の勢いが強くなったためだ。

【胡蝶乱舞】と命道トモエが唱えると

彼女を中心に6人のトモエは超高速回転を始め巨大な竜巻を起こしインフェルノ(灼熱火炎地獄)の炎を移動しながら次々に掻き消していった。


「ほう見事な術だな。」と台風のような風が吹き荒れGUZE(グゼ)自身は微動だにせず感心している中、地上を紫に彩った艶やかな胡蝶は全ての炎を鎮火させた。


「そんな馬鹿な!」と黒き魔女が茫然とする中、地上の6人のトモエの動きが元の六角形の各頂点へ超高速回転が高速回転になったころ巨大な竜巻はただの強風にかわり地上に描かれた胡蝶は色あせていったが、

「これで終わりですか!案外、不甲斐ないのですね!」と今度は本体中心の命道トモエが

挑発とも取れる言葉を黒き魔女に投げかけた。


数十メートル上空で茫然としていた黒き魔女カトリーヌ・フォン・ブレルはこの挑発とも取れる言葉で我にかえり「なんですって!調子にのるのもいい加減にして頂きたいですわ。こうなれば我が魔法の奥義をもってその鼻っ柱をへし折って差し上げます。」と挑発には挑発で返すかたちで言葉を言い放った。


とは言ったものの一度使用した奥義魔法の

破壊規模の大きさを思い出しいささか躊躇する中、黒き魔女の中にある考えが浮かんだ。

(自分たちは何故こんな事をしているのか。

こんな死力を尽くす戦いになって場合によっては相手を殺してしまうかもしれない。)


「この辺で幕引きにしません。

私の魔法はこの地上で使うには危険すぎるわ。」と我に帰り冷静に客観的意見を風の魔法で増幅し言うと


当の命道トモエ自身は

「臆しましたか!黒き魔女よ!

一度戦(いくさ)ともなれば身を捨てる覚悟で

死力を尽くすのみです!」と

覚悟の程を言霊で増幅し黒き魔女カトリーヌ・フォン・ブレルに説いた。


その言葉を聞いた黒き魔女は一瞬

「カ〜ツ」となったが、すぐに冷静さを取り戻し「わかりました!そこまで言われるなら

お望み通りいたしますわ。ただし条件があります!」とトモエの引き起こした風で乱れた金髪縦ロールを綺麗に整った白い指で直しながら風の魔法で増幅した声で更に続けた。

「これだけの技の応酬をしながら勝者が敗者に何の要求もしないのはむしろおかしいでしょう。」

「最もあなたがこの魔法で亡くなれば

それはそれで仕方ありませんけど!」


 その言葉を風の魔法の増幅で聞いた

命道トモエはしばし目を閉じ熟慮したが

「わかりました!その条件でこの決闘の

幕引きをいたしましょう。」

「それで勝者は敗者に何を要求するのですか。」とトモエが聞き返すと

黒き魔女は「勝者は敗者に何でも命令できる。それでどうかしら。」と言い

「わかりました。それで異存ありません。」


 目を「カッ」と見開き美しく整った顔を更に引き締め他の6人のトモエは回転しつつ自らは動きを止め霊刀【菊一文字】を納刀、

黒き魔女の最大魔法の要撃に備えた。


黒き魔女は更に数百メートル以上、地上にいるトモエが米粒ほどに見えるほどに上昇すると杖の水晶に魔力を収束し始めたが、

【胡蝶乱舞】の破壊を免れた空中にいた

黒き魔女の【ファントム・ミラージュ(幻影蜃気楼)】の分身たち数体も本体に合わせて杖の水晶の収束を行い、GUZE(グゼ)の時とは明らかに違う膨大な魔力が時間をかけて収束されていく。


「これは間違いなく最大の魔法が繰り出される予兆ですね。」と簡易的な先見の力と

「ビリビリ」と振動が伝わるような大気の波動から命道トモエは更なる緊張感に包まれるが、ふとこの対決が始まる数十分前の何気ない出来事を思い出していた。


それは霊刀【菊一文字】を自家用ヘリに受け取りに行った時だ。

自家用ヘリの20メートルほど前に折り鶴を着地させた。

鶴から降りてすぐ先を見ると自家用ヘリの

すぐ側には2人の人間の立ち姿があった。

1人は執事服を着た短髪の白髪頭の白髭を鼻の下に蓄えた老人ともう1人は見事なグリーン色のメイド服に身を包み若干のソバカスに

眼鏡をかけた顔に長髪をポニーテールに結んだメイドだった。

例の2人である。

トモエが近づくと老執事は右腕を胸元につけメイドは両手をスカートの前で合わせ2人は

深々にお辞儀をした。

「お嬢様!ここに霊刀「菊一文字」をご用意致しましたが、その前に…。」とチラッと

老執事はメイドの方に視線を移すとメイドは

「お嬢様、その前にお着替えが必要ではありませんか。その衣服のお着替えと下着もお着けにならないと。」メイドはすぐさま

スイッチひとつで展開されるテントを自家用ヘリの前で用意し着替えの準備を整えた。

黒塗りのケースのようなものに入っている

折り畳まれたテントを取り出しスイッチを押すと簡単に展開され大人が余裕で入れるテントが高さは180cm以上、横幅は200cm以上の

正方形に近い白のシンプルなテントだった。

「わかりました。まず着替えます。」と

2人に言ったトモエはすぐテントに入ろうとしたが、「お嬢様、これをどうぞ。」とメイドより衣装(巫女服に酷似した)と間に下着が僅かに見えていたため、それを確認したトモエは

やや赤面して受け取るとそのままテントに入って行った。

テントは彼女が入ると同時に入口のファスナーがメイドの手で閉められた。

GUZE(グゼ)との死合いで若干汚れた衣装を手早く脱ぐと見るものを魅了せずにはいられない絶妙の肢体が姿を表した。

だが素早く簡易テントの中にある同じ材質のおそらくはテントの展開で自動的に組み上がる棚の上に置いた替えの衣装の間にある下着を丁寧に取り出すと女性らしい仕草で身につけていった。

絶世のプロポーションが下着に隠され

次いで衣装の上着と袴を身につけて

鉢金のついたハチマキをつけ頭の後ろで結び

利き腕の右に黒塗りの模様の籠手をつけ

最後に膝から両足に黒塗りの防具をつけ

赤い刺繍がほどこされている上質の草履(ぞうり)をはくとテントより外に出た。


 外に出ると2人が彼女を待っていたが

老執事が「菊一文字」の収納されている達筆な墨の字で書かれた木箱を両手で

持っているのに対してメイドは少し不思議なものを両手で持っていた。

ティーセットを乗せたトレーとブラシである。

「明日香さん。それは…。」やや不思議に思ったのかトモエはメイドの本名で聞き尋ねた。

 彼女がある程度の敬語をメイドに使うのは

彼女が見た目より年齢が上で少なくとも

トモエより数歳は年上だったからだ。


「お嬢様。日頃から言わせていただいておりますが、私は貴方様の召使いの身です。

明日香とお呼びください。」と明日香が言うと「ごめんなさい。お爺様に年上の人には

敬語を使うようにと言われているから。」

とトモエが切り返す。

「御当主様にですか。困ったものです。」

と左頬に手を当てながらため息混じりに明日香は応えた。

2人にとってこの会話は日常的にされている事を物語っている。


それでもメイドの本分を果たすべく明日香は

「お嬢様。お髪(ぐし)を直します。それと

その間、お茶をお召し上がりになり一休みしてください。」

「明日香さん。今はそれどころではありません。GUZE(グゼ)様もお待ちです。急ぎ戻らなくては。」とトモエが言うと

「お嬢様。こういう時だからこそです。」

「トモエ様は生真面目すぎますわ。

一度頭も体も休息されて気持ちの切り替えが必要でしょう。

特に大事を控えた時は尚更だと存じます。」

目を閉じ顔を伏せつつ両手をまえに上向きに重ね臣下の礼を尽くすように明日香は言った。

そのような態度で臨まれると命道トモエとしてはそれを無碍(むげ)にもできなかった。

「わかりました。明日香さん。お茶をよろしくお願いします。それと髪のケアもお願いしますね。」

「かしこまりました。まずお茶の用意を。」

と明日香は目配りで老執事にサインを送った。

老執事は持っていた上質な木箱をストレッチャーの上に乗せてトモエの横に運ぶと明日香のティーセットのトレーを両手で持った。

「ありがとう。藤堂さん。」とこれまた

老執事の本名を口にした命道トモエは

明日香が入れた上質の紅茶の入ったティーカップを手に取った。

紅茶もだがティーセットも素晴らしいものだった。

ウエッジウッド!英国王室御用達の工房から直接輸入した可愛い花模様の白磁の光沢の特別使用のティーセットはそれだけで数千万円する高価さだ。

それを当たり前のように口にする命道トモエはある意味庶民とはかけ離れた存在と言えた。


「美味しい。香りもとても素晴らしいわ。」

忌憚(きたん)のない意見を口にした命道トモエは目を細めながら微風(そよかぜ)吹く

野外のティータイムをしばし紅茶の味と香りで楽しんだ。


命道トモエが紅茶を楽しむ中、明日香本人は

セッセとトモエの髪を梳(と)かしていた。

その手捌きは一流のヘアデザイナーの如く

「シャー、シャー」と滑らかに梳かす音が聴こえてくるようだった。

トモエの美しい艶のある黒髪は案外彼女の貢献が大きいのかもしれない。


トモエが最後の一口を呑みトレーにティーカップを置くと明日香は前にまわり前髪を梳かし整えた。


全ての準備を終えた時、

藤堂という名の老執事は今度は明日香にティーセットのトレーを手渡すとストレッチャーの上に載せている木箱の蓋を開けた。

霊刀【菊一文字】が鞘(さや)の中にあっても

若干の蒼白い光を放ちながらそこにあった。

木箱より菊一文字を右手で取り出し左脇に差すと

「行って参ります。」と命道トモエは口にした。

そう聞いた瞬間、「御武運を。」と

2人の従者は命道トモエに深々と頭を下げた。

命道トモエは再び折り鶴に乗りこの場を去ったのだが、この間10分の時間も経っていないにも関わらず濃密な時間を過ごした彼女だった。


時は再び黒き魔女カトリーヌ・フォン・ブレルと命道トモエの対決の場面に立ち返る。


黒き魔女が最終奥義の魔法を繰り出すため

杖にはめ込まれている大きな賢者の石に魔力を収束していた。


それを地上で眺めながらトモエは

「明日香さん。藤堂さん。ありがとうございます。この難局にどうにか立ち向かえそうです。」と僅か数十秒のノストラジーだったが

彼女を勇気づける思い出だった。


命道トモエは思考する。

(あのファントム・ミラージュによる複数人の

黒き魔女の杖の水晶に収束されている魔力は

膨大なもの。最大級の魔法が解き放たれるのは最早必然でしょう。ならばこちらも

秘術の全てを駆使して争(あらが)うしかありません。)

「ス〜、ハ〜」と息を整え彼女は鬼道の

奥義も駆使して対抗する。


「我の眼前の敵を打ち払う為に、降臨せよ。」

「【天人降臨】上泉伊勢守信綱(かみいずみいせのかみのぶつな)」と命道トモエが目を閉じ

刀を納刀し印を組みながら言霊に念を込めると剣聖【上泉信綱】がその身に降臨した。

無論主人格はトモエであるため彼の剣技と

助言が受けられるということだ。

だが状況を見た彼(信綱)が思ったことは尋常ならざる事態であったことだろう。

次いで命道トモエは陰陽道の【胡蝶乱舞】の最終奥義をも解き放つ!


究極奥義【胡蝶乱舞青龍飛翔嵐(こちょうらんぶせいりゅうひしょうらん)】


六人のトモエが更に複雑な動きと超高速回転するだけではなく中心本体のトモエも

超高速回転となり7人全員が胡蝶の紋様を描いたまま上昇を始めいつしか胡蝶の紋様は

空中で回転開始、回転は超回転に移行、

輝きはいつしか紫から青に変わり巨大な龍に

変化した。

龍の顔の部分は直径数十メートル以上、

尾の部分に至るまでは数百メートルに及ぶ。


その光景を見た黒き魔女カトリーヌ・フォン・ブレルは

「ぎょっ」とした。

あんな青い巨龍は見たことがない。

だがどんな青い巨龍であってもこの魔法には太刀打ちできないはず。

不意の相手の大技に一瞬驚いたもののすぐに

自信を取り戻し魔力の収束を続け完了、

詠唱へと繋げる。


「我が前に立ちはだかる愚かなるものに

その存在にて鉄槌をくだせ!

【メガメテオバースト(巨大隕石爆発弾)】」


と再び全長数キロに及ぶ超巨大隕石が召喚されたが、それだけではなかった。

今回はファントム・ミラージュで増えた黒き魔女が本体には遥かに及ばないものの

それでも直径数百メートルの巨大隕石を

4個ほど召喚し落下させようとしていた。

合計で5個の超弩級の巨大隕石が地上に落下する。


「受けなさい!命道トモエ!骨は残らないかもしれないけど!弔いはしてあげるわ。」


更に杖を箒に変え上空数百メートル以上に退避、念のため風魔法の壁と更に身体強化魔法を自らにかけた。


超巨大隕石の群れが地上に向けて落下する。

それに即応し青い巨龍がそれらを要撃。

驚くことに青い巨竜はそのまま数百メートル級の隕石に向けて突進、1個を粉砕し次々に

各個撃破しながら空は巨大な花火が満開で

大空を覆い尽くす有様だ。

最後の数百メートル級が破壊された時、

黒き魔女は目の前の出来事を疑った。

「そんな馬鹿な!」


そして青い巨龍は最後の自らより数十倍大きな超巨大隕石に向かって行く。

【青龍抜刀、飛翔粉砕波(せいりゅうばっとう、ひしょうふんさいは)】

と命道トモエが唱えると自身が納刀していた

菊一文字を抜刀!

菊一文字がまるで青白い炎でも吐くように霊刀の発光現象が数百メートル以上になり

初撃を正面に複数の巨大な斬撃は超巨大隕石の多方面に行われた。

全長数キロに及ぶ超巨大隕石はみるも無惨に「バシュー、シュバー」と幾重もの切断音をさせながら細切れにされていく。

「ドカーン」と一際大きな爆発音とともに

おそらく生涯にわたって遭遇することはない超巨大な花火のような閃光は空全体を飲み込むように覆い被さり他の巨大隕石ともども

細かな隕石弾を地上へと降りそそがせた。


「そんな私の魔法が…。」と

愕然とする黒き魔女に青き巨龍は向かってきた。

黒き魔女自身は寸前で風魔法の防御壁で

僅かに飛ばされながらも防いだが他の黒き魔女の分身達は消し飛んでしまった。


「私のファントム・ミラージュまでも…。」と大技の連発と予想外の相手の反撃にあい

消耗が激しく憔悴(しょうすい)し切ったところ青い巨龍の中から体を切り揉みのように回転させ命道トモエは飛び出して来た。


「終わりです!」と彼女は言い放つと

1時(いっとき)の巨大な輝きは失せたものの

刃渡り数メートルの菊一文字の青い輝きは

回転の勢いも借りて黒き魔女の風魔法の障壁に切り込んだ。


「はあ〜つ」と命道トモエの菊一文字に

自らの力と霊力を込める気合の言葉が

叫ばれた。

霊刀【菊一文字】の青く輝く刃は風魔法の障壁を切り裂いていく。


「ガシャーン」とまるで硝子が壊れるような音と共に風魔法の障壁は消えて無くなった。

「防御魔法の最高位の障壁が消滅!」

度々自らに起きる出来事が信じられず

黒き魔女は驚嘆していた。

だが僅かな暇(いとま)も無く命道トモエの攻撃は続き「御免なさい。」と菊一文字の刃を上に返し正面から峰打(みねう)ちのかたちで

上段から斬撃。


「ドーン、ドドーン」と峰打ちとはいえ

黒き魔女に霊刀【菊一文字】でかなりの威力の斬撃を数回に渡り加えた。

だが身体強化魔法を付与していたためか

黒き魔女は意識が刈り取られるまではいかなかった。


「まだ浅い!」と瞬時に判断した

命道トモエは素早く納刀し峰打ちで意識が朦朧(もうろう)としている黒き魔女の正面から両肩口を掴むと倒立、そのまま前方に回転して背後に回り互いに背中合わせになると回転の勢いと腰のバネを使い「えぃ」と短く掛け声を黒き魔女を前方に投げプロレスでいう

「パイルドライバー」のようなかたちで

高度数百メートルを落下し始めた。

だがこのままではお互いに命はない。


そう判断し素早く懐に手を入れると陰陽道でいう護符を使用、念を込め護符を数枚まとめて空中に放つとそれらはかわるがわる

足場とんなりその上を跳躍し最後は数メートル程度となり落下、「フライング・パイルドライバー」とでもいうのだろうか、

そのまま何故かもと通りになっていた草地の部分に黒き魔女を叩きつけた。

「ドスッ」と大きなものが叩きつけられる音がすると「キャッ」と短く大きな声が漏れた。

これには堪(たま)らず黒き魔女カトリーヌ・

フォン・ブレルは意識を失った。


草地が元通りなのはあらかじめGUZE(グゼ)

がある程度の先見の力で大地を再生していたからだ。


黒き魔女が意識を失っていることを確認した

トモエは唇より「ふ〜」と大きな息を漏らした。

稀にみる激闘だったが、いずれにせよ

命道トモエの辛勝(しんしょう)で幕を閉じた。


第22話 完 続く

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