第11話 「御使(みつかい)との死闘篇」(後篇)

 御使(みつかい)。

それは本来人間と姿形(すがたかたち)は

変わらない者たちだ。

ただ違うとすれば彼らが人間より遥かに巨大であることだろう。

体長は8〜10メートル、地上で生活圏を営む者でこれほど巨大な体躯(たいく)の生物は存在しない。

彼らはある意味、死者の魂を導くという点で

死神であり天使ともいえるだろう。

その彼らは今、常軌を逸(いっ)していた。

常軌を逸した彼らは尋常ではない姿でそこにいた。

「GUZE(グゼ)、この奇妙な生き物は何なのですか?!」と黒き魔女カトリーヌはいつの間にか両手で胸と秘所を抑えながらGUZE(グゼ)の背後に隠れながら尋ねた。

だが御使(みつかい)は答えるより早く

その巨大な体躯(たいく)から右手をGUZE(グゼ

)に向けて振り下ろした。

GUZE(グゼ)は咄嗟に黒き魔女カトリーヌを

お姫様抱っこのかたちで抱えその場を飛び退いた。

お尻と胸がGUZE(グゼ)の腕にあたり彼女の柔らかさが伝わるが当のGUZE(グゼ)は無反応で

も黒き魔女カトリーヌはその恥辱か喜びか

わからぬ感情を顔を真っ赤にして耐えていた。

バシュートと空気を裂く音が聞こえる攻撃をしながら飛翔し次々と数人がかりで攻撃してくる御使をGUZE(グゼ)はかわし続けた。

そのような尋常ならざる状況の中、

黒き魔女カトリーヌは強靭な胆力のためか

それとも芽生え始めたGUZE(グゼ)への信頼からか

「GUZE(グゼ)先程の質問です。

この者たちは一体なんなのです。

それとできれば…。」と言い淀むと

「できれば何故私だけ服を着ていないのか

教えて欲しいのですが。」と言うと

GUZE(グゼ)が「あれは御使(みつかい)、

黄泉の世界の秩序を乱すものを罰し死者の魂を西洋で言うところの天国や東洋でいうところの黄泉比良坂(よもつひらさ)に導く者、

死神や天使のような者たちだ。」と答えると

「天使、死神!?死神というのはわかるけれど、天使にはどう見てもみえないわ。」

「本来の彼らもこのような姿ではない。

秩序を乱す余程のことがあったのだろう。」

「秩序を乱す余程のこと?何があったというの。」と黒き魔女が聞くと

GUZE (グゼ)は若干の間(ま)の後に

「2人の女性が彼らの手を逃れて現世に戻ったのだ。本来、死者は天国や黄泉比良坂か

罪業(ざいごう)あるものは地獄へといざなわれる。ある例外を除いてな。」

「例外って!」

「人間で言うところの救世主、英雄、高貴な血筋、等の現世での功績が非常に大きい

者たち。」本来、彼らはその者たちに従い

死後の世界へと案内するのだ。」と

GUZE(グゼ)が御使(みつかい)の事を黒き魔女に答える間(あいだ)も鋭い攻撃は続いていた。

一応に納得したのか黒き魔女カトリーヌは

押し黙ったが、

「GUZE(グゼ)、それともう一つの方の

ごにょごにょ…。」と

気恥ずかしいのか言葉を濁しながら聞いた。

対してGUZE(グゼ)は少し意外な言葉を発した。

「周りを見てみろ。」

「周りを?!」

言われた通りに黒き魔女は周りを見た。

しかしこれといって何も見えなかった。

「GUZE(グゼ)!これといって何も見えませんが?!」

「よく目を凝らして見てみるといい。」

とGUZE (グゼ)は相変わらずの冷静沈着の

無表情で御使(みつかい)たちの波状攻撃を交わしながら言った。

「目を凝らして。」と

言われた通りに黒き魔女カトリーヌ・フォン・ブレルはじっと目を凝らしながら周りを見た。

するとうっすらとした影が多数存在した。

「何なのあれは!」と更によく見てみると

それは人影だった。

存在感が希薄で今まで感じとることができなかったのだ。

「あれは人なの!?」

「そうだ!あれは過去、現在、未来に

おいて亡くなった人々だ。

この世界には時間の概念(がいねん)は存在しない。」

「等しく現世で亡くなった人々はこの世界に集まって来る。

そして意識を保てぬままあの先の黒き穴から

それぞれの死後の世界へと旅立つのだ。

「死して魂だけの存在となった者は意識も希薄で無防備な存在となる。

よって生前の生まれたままの姿で死後の世界へと向かうのだ。」

「私は自らの意思で肉体と魂を分離し、

いわば仮死にあり意識もはっきりしている。無防備な状態ではない。

ゆえに現世と同じ姿なのだ。」と

GUZE(グぜ)は言った。

端正な顔立ちの美青年とはいえ

多少逆立つ髪と白のポケット付きのTシャツ

にジーパンと黒のスニーカーと至って平凡な

格好のGUZE(グゼ)だが

次々と攻撃してくる御使(みつかい)たちの攻撃を自分を抱えたままかわし続ける姿は

黒き魔女カトリーヌ・フォン・ブレルにとってこの上なく勇ましく見えただろう。

ただ一つ彼女にとって問題があるとすれば

自分が全裸であることだ。

この瞬間も彼女の極めて形の良い大きい胸と

お尻は激しく揺れていた。

並の男ならその素晴らしい感触に酔いしれるだろうが、御使(みつかい)との関わりをいかに

決着するかその点に思いを寄せている

GUZE (グゼ)にとってどうでもよい事だった。

そんな中、

黒き魔女カトリーヌ・フォン・ブレルは少し不愉快だった。

全裸でGUZE(グゼ)に「お姫様抱っこ」され

羞恥心から顔を真っ赤にしていることに偽りはないが、自分の女性としての魅力は並の男ならば抗いようがないのに何の反応も示さない事への苛立ちだった。

場合が場合なので当たり前のことでもあるのだが、それでも割り切れないのが複雑な女心である。

少し膨れ面で黒き魔女カトリーヌは

「GUZE(グゼ)!私はどうすれば衣服を着ることができるのかしら!?」と半ば怒ったように問いかけた。

何故、怒っているのか並の男ならば

多少は混乱するところだろうが、

GUZE(グゼ)は「先程も言ったがあなたは意識が曖昧で魂が無防備な状態となっていた。

その為、生まれたままの姿で彷徨っていたのだ。

今は意識を取り戻し自我がはっきりしている状態だ。

ならば少し前の自分の姿形(すがたかたち)を

想像して強く念じるのだ。そうすれば元に戻れるだろう。」

と黒き魔女の問いかけに答えている最中も

御使(みつかい)たちの猛攻は続いていた。

言われた通りに黒き魔女は目を閉じて少し前の自らの姿を想像した。

黒のレース編みのブラとパンティ、

すると付けている時の皺(しわ)まで再現されるほど精巧な少し前と寸分違わぬ黒下着を付けることに成功した。

「やったわ!この調子で。」と黒き魔女は

次々と魔女の衣服を再現していった。

レースと胸の部分のリボンのチャームポイントの上着、ミニスカートの房のレース柄、

太ももまであるロングブーツ、魔女のとんがり帽の真ん中のリボンまで、完全に再現した。

「やったわ!完全に元通り!残る問題は…。」

と目を開けた黒き魔女は衣服の確認をすると

今度はGUZE(グゼ)に視線を移すと

「GUZE(グゼ)!私を降ろしてもらえますか。

このままではあなたも戦いずらいでしょう。

援護もできませんし。」

GUZE(グゼ)は若干の沈黙の後、黒き魔女カトリーヌの希望通りに瞬時に相手との距離を

とり離れた場所に降ろすと再び御使(みつかい)たちに向かって飛翔した。

その光景を見ていた黒き魔女は安心していた。

何故ならGUZE(グゼ)の実力をいちばん理解しているのは自分だと思っていたからだ。

御使(みつかい)たちの攻撃は鋭く速いが速度は

自分より遅くときおり突風も混ぜて攻撃してきていた。

攻撃そのものはそもそもGUZE (グゼ)を捕獲することが前提である。

間違えば並のものなら即死しかねない攻撃ではあるがGUZE(グゼ)に通用するはずがないと

思い込んでいたのだ。

「GUZE(グゼ)はわたしとの死闘で私の攻撃の全てを受けきっても擦り傷一つ負わなかったのよ。あんな攻撃が通用するはずがない。」と。

だがその思い込みは脆くも崩れ去った。

少しの間見守っていた黒き魔女はある変化に

気づき始めた。

GUZE(グゼ)の表情が真剣そのものだったのだ。

いつもは余裕すら感じさせるGUZE (グゼ)だが、あまり余裕は感じられない。

そんな漠然とした不安に襲われる中、

黒き魔女の予感は的中した。

GUZE(グゼ)の両頬に傷ができたのだ。

黒き魔女カトリーヌは驚愕した。

自分との壮絶な戦いで擦り傷一つ作らなかったGUZE(グゼ)が今度は両手足にも傷を負い始めたのだ。

無敵と思われたGUZE(グゼ)の苦戦ぶりに思わず、

「GUZE(グゼ)!何をしているのです!

あなたならこの危機も問題なく切り抜けるはずでしょう。」と叫び声にも似た大きな声で

問いかけた。

少し離れていたものの、十分聞こえていた黒き魔女の問いかけにGUZE(グゼ)は

「あの黒き穴をよく見るのだ。」

と答えるとすぐさ黒き魔女カトリーヌは

死後の世界に続くとされる黒き穴を見た。

黒き穴は一見すると何の変哲もない黒い大きな穴だった。

だが黒き魔女は目を凝らして黒き穴を見た。

すると黒き穴より黒とも灰色ともいえる薄い

霧状のガスのようなものが噴き出てきていた。

それに驚いた黒き魔女は「GUZE(グゼ)、あれは。」と再び問いなおすと

「ここは現世ではなくより死後の世界に近く

いわば神域(しんいき)にも近い場所。

あの霧状のガスは神域より漏れているのだ。

周りの空間の色はそれらがある程度充満したもの。この空間では全ての力が制限されてしまう。私の力も例外ではなくそれが神の法なのだ。」とGUZE(グゼ)は言った。

「神の法!」

「そうだ!私がGUZE(グゼ)である以上、

それに従うのみだ。ここでは現世での私の数千分の1の力らも出せないだろう。」

そのことを聞いた黒き魔女は慌てて

「数千分の1!どうするのですかGUZE(グゼ)!」

「今考えている最中だ。」と答えながら

GUZE(グゼ)が思案中も御使(みつかい)たちの

攻撃はバーンと大きな破裂音を響かせ音速を超えた。

「どうすればよい。私が本気になれば御使(みつかい)たちを消滅させてしまうかもしれない。

一か八かの賭けに出るか。」と

考えている最中、黒き魔女が想像しなかった事態が起きた。

最初に黒き魔女の前に立った一際目立つ

御使(みつかい)の攻撃がGUZE(グゼ)の

胴体にクリーンヒットしたのだ。

吹き飛びながらかろうじてその勢いを止め

数十メートルのところで踏みとどまった

GUZE(グゼ)は「まず御使(みつかい)たちを元に戻さなければならない。だがどうすれば。」

GUZE(グゼ)の中に初めて焦りのような感情が芽生えていた。

消滅させるのではなく元に戻すことで御使(みつかい)たち自身とわたり合わなくてはならないのだ。

非常に困難に思えたこの事態、その時

「GUZE(グゼ)様!諦めてはなりませぬ!」と

一際美しい女性の声が響き渡り

長い髪をした女性の影がこの世界に降り立った。


第11話 完 

次回は「眉目秀麗!才色兼備!命道トモエ(めいどうともえ)参上」篇」に続く
























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