第7話 試練への旅立ち篇(前編)
黒き魔女カトリーヌとGUZE(グゼ)の
壮絶な死闘が終了したほぼ同時刻、
ところ変わりここは日本の防衛の要、
日本防衛省、ここである報告がなされようとしていた。
「このご時世だ。
文官と武官のパイプ役のような部署が必要だがな。
うちの部署がそれを担うわけだが、
それにしても修遠平(しゅうえんぺい)」め、
領土侵犯など、今の国際秩序をなんだと思っているんだ。」
「欲望剥き出しで武力による国際秩序の変更など1世紀近く前の思想だぞ。」
「はい!これほど好き放題されては先進国としても黙っておりません。
先進7カ国が中華連邦国への制裁を決定し経済、軍事行動に入っております。」
「南シナ海の軍事侵略に飽き足らず
台湾も軍事侵略、東シナも手に入れようと
艦隊を配置し始めている。このままでは
日本の領海もいつ侵略されるかわかったものではないな。尖閣諸島も侵略されかねん。」
「そうなれば日本も国の威信にかけて参戦し
なければなりません。正直あってはならないことです。」
「わかっている。だがどうも腑に落ちないところがある。」
防衛省の執務室の一角でその執務室の
主人と防衛省の職員らしき若い青年が
話し合っていた。
執務室の戸口の左側には「戦略防衛情報室」という達筆な墨の字で書かれた大きな立て看板があり室内の机の上には「戦略防衛情報室長」というプレートがあった。
その机の椅子には隙のない鋭い眼光のナチュラルカットされた短髪は白髪が所々まじり趣味の良い紺のスーツとネクタイは
高級品のオーダーメイドの仕立てがうかがわせる初老の男が鎮座していた。
「「室長」どうゆうことでしょうか。」
短髪の青いスーツに身を包んだ清涼感の
ある若者が室長と呼んだ男に尋ねた。
「おまえは修遠平(しゅうえんぺい)が
急に来日してこともあろうにアポ(予約)なしに
天皇陛下に謁見した出来事を知っているか。」
「はい。確か当時かなり騒ぎになったそうですね。私は子供でしたので、あまり詳細はわからないのですが。」
「そうだ。もう10年以上前の話だ。
当時の修遠平は中華連邦の最大与党とはいえ
共産党の有力ないち党首候補に過ぎなかった。
その修遠平が党首選の最有力候補となったのが、いま言ったアポ(予約)なしの天皇陛下への
拝謁だ。
霊言あらたかな天皇陛下への拝謁を果たす事で共産党内での自身の立場を強化し
一躍党首選での自身の優位を確立したのだ。
結果この行為が功を奏して修遠平は中華連邦国の最大与党、共産党の党首と国家主席となり現在に至るわけだ。」
「だが本来、天皇陛下への謁見は1ヶ月以上前からアポ(予約)するのが通例だからな中華連邦国の党首、総書記、有力候補とはいえ特例処置で陛下との謁見を進めた連中は青い顔をして後悔しているだろうな。
何せその修遠平(しゅうえんぺい)率いる
中華連邦国軍の共産党が世界大戦の
火付け役となったんだからな。
お陰で平和主義を掲げる我が国も同盟国の
要請により戦争参加を余儀なくされているわけだ。
我が国も参加となればまさしく第三次世界大戦と言えるだろうな。」冗談混じりながらも話す室長と呼ばれる男の目は笑ってはいなかった。
「中華連邦国は日本にWTO(世界貿易機関)の
加盟時に推薦されるなど少なからず世話になりながら恩を仇で返す所業だよ。
こちらもWTOに推薦した連中は陛下の件も含めるとまさに泣きっ面に蜂と言ったところだろう。
現在の中華連邦国の増長ぶりをみるにつけ、
文化レベルの伴わない民族の大国が経済力をつけると軍事にお金が流れるという悪い
例と言えるな。」
「「室長」修遠平が共産党 総書記、国家主席、中華連邦国の最高指導者となり中華連邦国の増長ぶりの経緯はわかりましたが、何故腑に落ちないとおしゃられるのですか。」と若い職員が尋ねると
室長と名乗る男は短髪の白髪混じりの頭を
右手でかきながら
「実は私はな、修遠平(しゅうえんぺい)が
来日し天皇陛下に謁見した後で開かれた
宮中晩餐会後のパーティーで修と話したことがあるのだ。」
「当時から些か強引で独善的なところはあったが、常識はわきまえている印象だった。
とても現在のような人類の存亡にすら関わりかねない行動をとる人物には見えなかったのだが……。
それとも地位が彼自身を変えたのか
いずれにせよ残念なことだ。」
室長と名乗る男は頭をかく手を止めて両手を机の上に置くと少し沈んだような残念そうなそれらが入り混じる表情で押し黙った。
しばらくの沈黙の後に室長と名乗る男は
若い職員に
「それで今日はどのような報告があって私の元に来たのだ。まさか出し忘れた書類を提出とか現在の世界情勢のレクチャー(講義)を聞くためではあるまい。」
「はい!些(いささ)か奇妙な事でしたので
ご報告するかどうか迷ったのですが、
実はつい今しがた北海道の大雪山の旭岳周辺で奇妙な現象があったとの
報告がありまして。」
「奇妙な出来事。」
「俄(にわか)には信じがたい事なのですが、
旭岳が大爆発を起こし消滅し元に戻った等の出来事があったとか。」
「何だそれは。旭岳が大爆発したというのも信じられん事だが自然現象で火山が噴火して
消滅という線もありえない事ではない。
稀だがな。だが元に戻っただと。
報告した連中は夢でも観ていたのではないか。
いや待ていま等と言ったな他にもあったのか。」
「はい実はその数時間後これは今しがたですがやはり大雪山周辺でマグネチュード(震度)6〜7程の巨大な地震が観測されました。」
「何だと。それは大変ではないか。
で現地の被害は。」
「それがこれも奇妙な事ですが何の被害の報告もありませんでした。それと一時的ではありますが、現地の気温が急激に下がったとの報告もありました。確認を再度行った結果、
今は何の変化もないそうです。」
「何だそれは。やはり夢でも観ていたのだろう。」
「いえそれがそうとも言い切れないところが。地震観測器等の計測では確かに
震度6強以上の地震が観測されていたとのこと。なので奇妙な出来事だと。」
「震度6強というのなら少なからず被害があった筈だが。」
「その周辺に被害もなくか。仮に秘密裏に
政府が北海道に地下核実験場を建設して
その核爆発実験が行われたにしても
被害がまるでないというのはおかしいな。」
「はい。大雪山周辺がほとんど無人状態で
あるとしても被害がまるでないというのは
おかしいですね。」
「奇妙な出来事か。」と
室長と名乗る短髪の白髪混じりの男は
両肘を机の上につき手の甲を上向きに
両指を組むとその上に顔を載せ考えを
巡らせ始めた。
短い時間だったが一通り今までのことに
思慮を巡らせた頃、若い職員がタイミングよく「室長、些か奇妙な出来事ですが、
この件、これ以上調査の必要はないように
思われますが。」
「いや、少し引っ掛かる。調査は続けてくれ。」と室長と名乗る男は机についていた肘の手の甲の上から顔をどけ若い職員に指示をした。
「わかりました。引き続き調査を続行します。それでは失礼いたします。」と別の部署に持っていくであろう書類の束を左脇に抱え右手を添えながら頭を下げ一礼した。
「御苦労よろしく頼む。」
「はい」
というと若い職員は振り向き戸口まで行くと
ドアノブを回し退室していった。
1人残ったその執務室の主人の室長と名乗る
男はその背中を見送り退室の確認の後、
独り言を呟いた。
「奇妙な出来事か。」
同時刻、大雪山周辺に話は戻る。
2人は立った状態で話しあっていた。
GUZE(グゼ)に対して黒き魔女カトリーヌ・フォン・ブレル はある品を渡していた。
彼女の杖である。
手渡されたGUZE(グゼ)は杖の先端から柄(え)さらにはめ込まれた大きな水晶まで入念に触り調べた。
「成程、これは素晴らしい杖だな。
杖の部分はかのナチスドイツが戦争に勝利するために探し求めていたと噂(うわさ)される
古代アトランティス大陸に存在したとされる
超金属の【オリハルコン】そしてこの水晶は
伝説とされる【賢者の石】か、それもこれだけ大きいものはおそらく他では現存しないだろうな。」
「良いものをみせてもらった。
美術品としても最上品といえるだろう。」
というとGUZE(グゼ)は黒き魔女カトリーヌへ
杖を丁寧に返した。
と同時に「それだけのものを渡され依頼されればある程度は信用しないわけにもいかないな。」と彼女の心中を察するようにGUZE(グゼ)は言った。
黒き魔女も「その通りです。
おそらくこの地上で最も高価な品を
先渡しとのことで送られてきました。
これ以上のことはあなたが信用にたる方だと
わかってからの話ですわ。」
と口ではやや素っ気なく言ったものの
黒き魔女は言葉とは裏腹にGUZE(グゼ)の
対応に期待を寄せていた。
「わかっている。」と
GUZE(グゼ)も全てわかっているかのような
穏やかな返答をした。
「今からあなたの全身を心眼にて調べさせて
もらう。よろしいか。」
とGUZE(グゼ)が言うと
「お願いします。」と
黒き魔女は答えた。
GUZE(グゼ)は目を閉じ目の前の黒き魔女
カトリーヌ・フォン・ブレルの全身の
オーラの状態を心の目でチェックしていた。
「流石に凄いオーラだな。常人のレベルを
遥かに超えている。オーラが微かに乱れて
いる部分があるな。」
「成程、これが。」
と言葉を発するとGUZE(グゼ)は目を開けて
これ以上ないであろう真剣な眼差しで
黒き魔女を見据えた。
その眼差しに一抹の不安を感じた黒き魔女は
「何かあったのですかGUZE(グゼ)。」と
問うとGUZE(グゼ)は
「あなたには【死んでもらわなければならない。】」
第7話 完 続く
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