第6話 「美しき黒き魔女篇」(後編)

上空より黒き魔女がGUZE(グゼ)のすぐそばに降り立った時、 四散した氷と空より舞い降りたダイヤモンドダストが日の光に照らされ虹色に輝きGUZE(グゼ)の背後には日輪のような情景が浮かび上がった。

それを見た黒き魔女カトリーヌは思わず

「綺麗」と言葉を口にしていた。

「はっ」と我にかえりGUZE(グゼ)を睨みつけた黒き魔女は言葉を発しようとした時、

「あなたは救いを求めている。」と

言葉を発せず黒き魔女の頭にいきなり直接GUZE(グゼ)の声が響いてきたことにも

「ギョッ」としたが、心の中を見透かされるのを嫌う黒き魔女は「わたくしが救いを求めているですって!言いがかりにも程がありますわ!

それよりも先程から思っておりましたが、

何故あなたは私の魔法を受けるばかりで

反撃してきませんの!GUZE(グゼ)」と

聞き返した。

「私はGUZE(グゼ)だ。

真に救済を願う者に攻撃はできない。」と

一切の澱(よどみ)なくさもそれが自然であるかのような堂々とした口調でGUZE(グゼ)は

答えた。

黒き魔女は動揺した。

「あなたは何をしたくてここに来た。」

「え、わたくしが。」

「理由は依頼を受けたからかもしれないが、真の動機はそうではあるまい。」

縁もゆかりも恨みもない相手を抹殺するならば依頼以外ありえないだろう。

「真の動機!?」

「そうだ、あなたは戦いながら常に心の奥底で助けを求めていたではないか。その心の声を聞いたからこそ私はここにいるのだ。」

黒き魔女は驚愕した。

言われてみればGUZE(グゼ)の実力を持ってすればわざわざ自分を待っている必要はなかった。

自分との接触を避ける方法はいくらでもあった筈だ。

なのに彼は自分を待ちあまつさえ一方的に

攻撃を受けている。

今までの戦闘からみてGUZE(グゼ)の実力は

おそらく自分より数段上、自らの心の奥底までも認識されるなんて【覚醒者】の実力は底が知れない。

黒き魔女カトリーヌは少し乱れがちな金髪を左手で整えながら冷静に思慮を巡らせ自分自身に問うた。

(確かにわたくしがここに来たのは依頼を受けたため。その依頼を受けたのも積年の宿願を叶える道筋が出来るかもしれない。)

と思ったからだった。

黒き魔女カトリーヌは混乱していた。

攻撃を受けていただけとはいえGUZE(グゼ)は

自らの魔女の矜持を誇りを踏みにじった。

さりとてここで再びGUZE(グゼ)と死合(しあ)っても自らの意地を示すことが出来るとは

思えない。

悩んだ末、黒き魔女は決断した。

「GUZE(グゼ)!わたくしはあなたに魔女としての誇りを傷つけられました。

ですがあなたの【覚醒者】としての力を見せられ脅威を感じています。」

覚悟を決めた面持ちで黒き魔女は言葉を続けた。

「GUZE(グゼ)!わたくしと本気で戦ってください。わたくしが本気で戦い自らの敗北に

納得できたならあなたの助力をお願いします。

まるで相手にもされないとあっては

黒き魔女の誇りが許しません。」

「自分勝手な願いであることは百も承知ですが、このままでは世界最強と言われた

黒き魔女としての矜持が保てません。」

と黒き魔女カトリーヌは真剣な眼差しで

GUZE(グゼ)を見据えた。

彼女にしてみればアイデンティティ(存在意義)の象徴が自らが魔女であったことだろう。

さもありなん!

魔法に全てを注ぎ込み自らが魔女であることを疑わず年月を過ごしてきたのだ。

彼女の脳裏にはその全ての道程が浮かんでは消えた。

その必殺の魔法が【覚醒者】によって

水泡に帰そうとしているのだ。

「それであなたは満足なのか。」

GUZE(グゼ)もまた真剣な面持ちで

魔女カトリーヌを見つめ答えた。

「ええ!」

「私があなたに勝利するということは

魔法を退け尚かつ攻撃して倒すしかない。

しかも私はGUZE(グゼ)だ。あなたを殺さずに

勝利せねばならない。」

「あなたにできますかGUZE(グゼ)。」

「それであなたが救われるならばやってみよう。」

左手を手刀のかたで前に右手は手の平を上向きに腰の位置にスタンスは左足を前に半歩程、右足を後ろに引き初めてGUZE(グゼ)が

戦闘の構えをみせた。

それに応じて黒き魔女カトリーヌも

箒を杖に瞬時に変え丸い水晶のはまっている

先端を前に出し身構えた。

一瞬で場の空気は緊張感に包まれた。

仮に第三者がこの場にいたならその空気に我慢できず逃げ出していることだろう。

それ程のものが両者の間の空間にはあった。

先に動いたのは黒き魔女カトリーヌのほうだった。

初期に立ち返り戦闘は接近戦より始まった。

彼女は杖とショート魔法の複合技で仕掛けた。

最早、黒き魔女カトリーヌには恥も外聞もなかった。

あったのは相手が対等以上の存在であることを認め必死に勝利することだった。

美しい金髪ロール髪を激しく靡(なび)かせながら、ロー、ミドル、ハイキック、後ろ回し蹴り、踵蹴り、などの連携技が何度も放たれ

その度にお臍まで捲り上がるスカートから

見えた黒下着とお尻は皺さえ分かる至近距離だったが、黒き魔女の体捌きは熾烈を極め

今では羞恥心など微塵も無かった。

それに対応しGUZE(グゼ)は寸前で捌く

究極の体捌きで、さも黒き魔女の攻撃が素通りするように見えたかと思えば複数人のGUZE(グゼ)が見える動き杖や足技、魔法を

素手で受け流すなどの音速を遥かに超える

流水の動きで対抗した。

黒き魔女カトリーヌは無詠唱でファイヤーボルト、ストームを繰り出しすぐさま杖を箒に変えそれに乗り急上昇、数千メートルの充分の高度を取ったところで詠唱を敢行、

杖の水晶に魔力を最大収束、

「我が前に立ちはだかる全ての者に、

その新星なる輝きにて粉砕せよ!

スーパーノヴァ(超新星爆発)!」

黒き魔女の最終奥義が放たれた。

小規模の新星爆発により全てを粉砕し

小型ブラックホールまで発生する

魔法だった。

その気になれば日本列島を焦土に変える

威力を持つ。

「これ以上破壊されては再生が少し厄介だな。仕方があるまい。迎え撃つとしよう。」

そう言うとGUZE(グゼ)は巨大竜巻きを発生させた時同様に超高速で円形に疾走すると跳躍、次の瞬間、勢いよく体を反転させ足先を放たれたスーパーノヴァに向けると疾走と体の反動を利用して錐揉み状に体を超高速で回転し巨大な竜巻きとなりその先端をスーパーノヴァに激突させた。

巨大な爆風により周囲のものは吹き飛んだものの放たれた大魔法のわりに被害はさしたるものではなかった。

黒き魔女カトリーヌは数千メートルの高度から魔法強化した魔眼で一部始終を見ていたが

「そんなまさかスーパーノヴァ(超新星爆発)の

威力が相殺されたとでもいうの。」と

まさかの事態に呆然としていたところ

背後に一瞬でGUZE(グゼ)が出現した。

「はっ」とそのことに気づいた黒き魔女は

「GUZE(グゼ)!」と叫び振り向こうとした刹那、「失礼!」と言いながらGUZE(グゼ)の

手刀が黒き魔女の首元の延髄に命中し

彼女は意識を失った。

気を失って落下する黒き魔女カトリーヌを

追い捕まえると俗にいう【お姫様抱っこ】のかたで抱きとめ、そのかたちで数千メートルもの高さを滑空するGUZE(グゼ)だった。

落下する黒き魔女カトリーヌとGUZE(グゼ)は

地上近くになるにつれてそのスピードは徐々に落ち、地面に降り立つ頃にはふんわりと

静かに降り立っていた。

地上に降り立ったGUZE(グゼ)は黒き魔女カトリーヌが目を覚ますまで、そのままの姿勢を

維持し続けた。

黒き魔女カトリーヌが寝言で

「……………。」というと目の端から

真珠のような涙が一粒、二粒と流れ落ちた。

程なくして黒き魔女カトリーヌは目を開けた。

「わたくしは負けたのですね。」と

静かに穏やかに問うとGUZE(グゼ)は

「ああ」と一言だけ答えた。

そんな黒き魔女がGUZE(グゼ)に

お姫様抱っこされている自分に気づき

少し頬を赤らめたが静かな口調で

「地面に降ろしていただけますかGUZE(グゼ)。」というとGUZE(グゼ)もまた

「わかった。」と穏やかに足先より黒き魔女を地面に降ろした。

地面に降り立った黒き魔女カトリーヌは

「わたくしの負けです。GUZE(グゼ)。」と

いうと「日本ではこのようにお詫びとお願いをするのでしたね。」

といきなり形の良い太ももが丸見えになるかたちで正座をすると

「参りました。数々の御無礼、誠に申し訳ありませんでした。これよりの御助成よろしくお願いいたします。」と両方の手の指先3本づつを揃えて深々とお辞儀をした。

少々づれているところはあるものの

丁寧な礼を尽くされたGUZE(グゼ)は

「わかった。最善を尽くそう。」と

黒き魔女カトリーヌに微笑するとともに

戦いのために形成した結界を解いた。

結界展開後の光景と結界を解いただけの光景は何ら変わらないはずだったが何故か陽光は

2人を照らし別の情景を映し出しているようだった。


第6話完


次回、試練への旅立ち篇に続く




















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