第5話 「美しき黒き魔女篇」(中編)
あたり一面どころか広大な範囲、数キロに渡りインフェルノ(灼熱火炎地獄) が猛威を極めた。
「おほほほほほ……。」と杖を箒(ほうき)に変え上空に退避しインフェルノ(灼熱火炎地獄)の
業火に燃やされているであろうGUZE(グゼ)を前に黒き魔女カトリーヌはその光景を観ながら高笑いをしていた。
ふとインフェルノの猛威が振われる業火の中で影が揺らいだ。
その影はインフェルノの猛威が振われていない僅かなスペースに向けて移動した。
程なく立ち込める炎の中から現れたのは
GUZE(グゼ)だった。
黒き魔女カトリーヌは驚愕した。
そしてGUZE(グゼ)をつぶさに観察して驚いたのはまったくの無傷であったことだ。
自らの魔法使いの矜持が揺らぎ始めた中、
気を取り直し黒き魔女は言葉を発した。
「さすが【覚醒者】といったところですか
GUZE(グゼ)!」と微妙に震える手と
動揺でうわずりそうになる声を抑えながら
黒き魔女カトリーヌは続けた。
「でもこれがわたくしのすべてではありません。ここからが私の魔法の本領発揮ですわ。」というや否や無詠唱でサンダーストームとメテオストーンを放ち上昇、レビテーション(空中浮揚)で空中に停止、箒を杖に変えて水晶に魔力を収束、最大火力を発揮する為に詠唱を断行、「我が前に立ちはだかる愚かなものを爆炎の焔(ほむら)にて葬りされ、
エクスプロージョン(大火炎爆発)。」と
GUZE(グゼ)に向けて放たれ大爆発を
起こし周囲は焦土と化した。
インフェルノの業火に上書きされたように
周囲は更に数キロにわたり地獄絵図の様相を呈示(ていし)ていた。
まるでこの世が終りのような状況の中、
動く人影が黒き魔女カトリーヌの視界の
眼下にあった。
GUZE(グゼ)である。
黒き魔女は目をこらしてGUZE(グゼ)を
魔法強化した魔眼を用いて観察した。
無傷なのだ!爆炎の焦げ目すらない。
黒き魔女はおそらく人生でこれ以上ない程の脅威を感じたが同時に自らの魔女としての
矜持が誇りが許ず、恐怖よりも例えようのない怒りが自らの不甲斐無さに向けられた。
「GUZE(グゼ)!図に乗らないでいただきたい
ですわ。これから放つ魔法は私の最大奥義のひとつです!耐えられるものなら耐えてみなさい!」と更に上昇し停止、怒りに任せた
詠唱は他を圧倒する迫力があった。
「我が前に立ちはだかる愚かなるものに
その存在にて鉄槌をくだせ。
メガメテオバースト!(巨大隕石爆発弾)」
全長数キロメートルに及ぶ巨大隕石が召喚されGUZE(グゼ)に向けて放たれる。
黒き魔女は怒りを覚えながらも心の中では
焦りと恐怖を感じていた。
GUZE(グゼ)との距離は数百メートル離れている。
視界に捕えられないほどの距離にある敵でさえ見ることができる魔眼でGUZE(グゼ)を観察したが、彼女の心中は物理的距離など無意味だった。
何故かはわからないがGUZE(グゼ)ならば
距離のアドバンテージなど無意味だと
感じさせたのだ。
例のごとく杖の水晶に魔力を収束、限界まで溜めた魔力で召喚した巨大隕石弾をGUZE(グゼ)に向けて落下。
その威力はおそらく核兵器に匹敵するだろう。
黒き魔女カトリーヌは魔法で強化した魔眼で
GUZE(グゼ)を再び観察した。
GUZE(グゼ)には一切の動きはなくただ堂々と
巨大隕石弾の落下を待ち望んでいるように
彼女にはみえた。
その様子を見た黒き魔女カトリーヌは
「GUZE(グゼ)!馬鹿にするのもいい加減になさい。」と怒りで唇の端を噛んで血を滲ませた。
巨大隕石は落下、地表に衝突すると爆風と
超高熱で数十キロに渡り地形が変わり
プラズマの発生さえ確認できる核のキノコ雲に類似した煙が爆発の巨大さをもの語っていた。
そこには自然と呼べるものはすでにない。
あるのは数十キロに渡り溶解して熱を帯びている大地といまだ止まない爆風と不気味にその存在を主張し黒く立ち昇るキノコ雲だけだった。
「わたくしは何とゆう事をしてしまったの。」
黒き魔女は一瞬怒りで我を忘れしでかした自らの行為に恐怖と自責の念を持ったが、
すぐにGUZE(グゼ)の行方を探した。
「やれやれ大変なことをしでかしてくれたものだ。」と黒き魔女カトリーヌの頭に直接男の声が響き渡った。
「これでは戦闘どころではあるまい!」
再び男の声が響き渡り黒き魔女は周囲を見渡した。
ただ上空には誰も存在せず何気なく見た眼下の立ち昇る煙の視界がクリアーになっていく部分に人影らしきものがあった。
立ち昇る煙が完全になくなったとき人影らしきものはその姿を完全に現した。
GUZE(グゼ)である。
黒き魔女カトリーヌは目を疑った。
魔法強化の魔眼はまたしてもGUZE(グゼ)の
無傷を告げるどころか溶解して煮え立つ大地の上にGUZE(グゼ)は立っていたのだ。
常人であればその場にいるだけで人体発火で
超高熱にさらされ死体も残らない。
それを何事もなかったように平然と大地に
立っているのだ。
黒き魔女カトリーヌは思考停止に近い状況に
なっていたが、「これでは戦いの舞台としては相応しくあるまい。」と三度男の声が響いた直後、GUZE(グゼ)が視界から消えた。
と同時に突風が吹き始めそれはひとつの小型のサイクロン(台風)のような風となり巨大竜巻きが一帯に吹き荒れた。
その巨大竜巻は信じられないことに数十キロにおよび巨大隕石爆発で破壊された大地をすっぽり覆った。
黒き魔女カトリーヌは更に上空数千メートル以上に退避したが、風の勢いは凄まじく
帽子を左手で押さえ右手でお臍(へそ)まで
捲れ上がり黒下着とお尻が見えてしまっているスカートを押さえた。
黒き魔女は無詠唱で魔法障壁を展開して風から解放されるとレビテーションで空中に停止しつつ魔眼を使用してGUZE(グゼ)の動向を探った。
地上の様子を探っていた黒き魔女カトリーヌは無数のGUZE(グゼ)が竜巻に沿って疾走しているのを見た。
武道の奥義のひとつに縮地(しゅくち)というものがある。
これは敵対相手との距離を一瞬でなくす
移動手段だがGUZE(グゼ)のそれはそんな
生易しいものではなかった。
GUZE(グゼ)が無数に見えるのは音速を遥かに超えているため分身のように見えているのだ。
だがそれも疾走の速度が際限なく上昇し続けると無数のGUZE(グゼ)が人数を減らし
最後には1人となり、更にギアが変わり完全に光速に近づくと姿は消失、眩しい閃光が当たり一面を覆った。
「キャッ!一体何が!?」
目が眩んだ黒き魔女カトリーヌはしばし目を閉じ視力の回復を待った。
目が回復し始めしばしばする目を少し擦りながら右目を開けた黒き魔女が見た光景は
大竜巻が治まり始め小型のサイクロン(台風)と
なり最後は突風程度にまで風が治まるが
周囲は身震いのする寒さに見舞われていた。
以前強い風が吹く中、キラキラ空中を舞う
虹色に輝くものがあった。
「綺麗!」と黒き魔女カトリーヌは寒さで両肩を押さえていたのを忘れて左手の平で
輝くものを抄くおうとした。
それはダイヤモンド・ダストと呼ばれる
摂氏マイナス20以下で起きる大気中の
水蒸気が凍り結晶化した現象である。
この現象は「天使の囁き」とも呼ばれ
日の光りがそれを照らし虹色に輝きを
ます頃には風も凪程度まで収まっていた。
巨大竜巻が起こしたこの天空よりの使者は
幻想的で美しく氷結が起きるほどの寒さだったが黒き魔女カトリーヌはそれを忘れて
しばしその幻想的な光景に見惚れていた。
その絶景に見惚れていた黒き魔女は咄嗟に
我にかえり地上を見渡した。
魔法強化の魔眼で地上をつぶさに観察したところメガメテオバーストで破壊された周囲数十キロに渡り完全に凍りついていた。
その現象に驚愕しながらも彼女の真下に動きを急停止したものがあった。
「こんなものか。」と疾風のごとく動いていたものは黒き魔女カトリーヌの頭に直接聞こえる声で言い放っと急停止。
と同時に凍りついていた大地はその凍りを四散させ急に新緑あふれるその姿へと急成長。
急停止した者の姿を確認した黒き魔女カトリーヌは今までにない深刻な顔で睨みつけた。
GUZE(グゼ)である。
自分の頭に響く声も一連の現象すべて
GUZE(グゼ))によって引き起こされていたのだ。
「【覚醒者】とはこれほどまでの力を秘めているというの!?」
額よりしたたり落ちる汗さえ気にとまらない程に黒き魔女はかつて無いほどの脅威を感じていた。
大地の成長が完全に終えたとき自然は完全再生と同時に凍りは完全に砕け散った。
そこには地に根を下ろしたように仁王立ちしているGUZE(グゼ)の姿があった。
第5話完 続く
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