#4 異世界転移は軽くないぜ!

 空気が有害物質だとか、殺る気マンマンすぎるっしょ。

 というわけで、そんな危険性の無い世界に転移させてもらうことになった。


 最低でも、ただ突っ立ってるだけで死なない程度は保証してもらわないとね。

 例えば「場合によっては毒が混じることもある」なら、注意すれば回避できる可能性が出てくるけど、「毒入りしかないから!」は死亡フラグすぎる。


 女神様は「細かすぎる」って言うけど、何度も死んでしまうよりは良いはず。

 そう思っていただけると助かりますです、はい。


『では、新たな世界での活躍を期待していますよ』



 ◇



 目が覚めた。ぱっちりと。


 青いそら、白いくも……いや、ちょっとどんより雲かな?

 むき出しの大地に、遠目には低めの灌木が。

 前回の世界とは違って、ちょっと荒れた感じだ。


 まあ言うても、地球にだって似たような地域はある。

 砂漠だったりとか、荒れ狂う天候だったりしないだけ上等かと。

 世界規模でこんな感じだと流石に困っちゃう気がするけど、それはそれで現地の人を見習っていけば生活はできるはず。


 しかし……妙に体が重い。

 なんかこう、ずっしりと疲労してるような感じ。

 女神様に再生してもらった身体がしっくり来てないのかな?


 とか思ってる間に、どんどん疲労感?がひどくなる。

 ぐぅ……立ってられないぜ。耐えられず膝を折る。

 立膝から腰を落とした状態でひたすら耐える。プロ野球ゲームの負け投手ポーズだ。


 まさか、また空気に毒でもあるのかな?

 でも、女神様にちゃんとお願いしたし。これでまた毒だったら女神様じゃなく邪神様だ。

 疲労感が増していく毒なんて知らないけど。いや、そもそも毒の種類なんてほとんど知らない。

 せいぜい青酸カリとかトリカブトとかの有名どころくらいだな。


 とか考えてるうちに、上半身を起こしていられなくなってきた。

 大地に倒れるように寝転がる。土汚れが服に付くとか気にしている余裕もない。


 ぐっ……呼吸が辛い。

 全身が重い。息を吸い込む動作が出来ない。




 いったい……なに……が……




 ◇



 気が付くと、再び真っ白い空間に戻っていた。


『私のことを邪神呼ばわりするとは、なかなかに肝が据わっていますね、第三界の方』


 いやそれは空気が毒だった場合のことでして。

 っていうか、何が起きていたのか、俺に教えて頂けますでしょうか。

 まさか毒じゃありませんよね?

 違うと言ってくださいおねがいします。


『ふむ……あの世界は、重力異常が多発する世界でしたか』


 重力異常?

 野菜な異星人が体を鍛えるのに使ってたアレ?


『局地的に、重力が通常の数十倍になる地域があるようですね』


 えー。

 そりゃ、野菜な異星人は重力百倍とかやってた気がするけど、俺らにゃ無理っしょ。

 鍛え抜かれた戦闘機パイロットでさえ、重力十倍に一秒耐えるのが限界って言うし。

 あれ? 十倍まで行かないんだっけ?

 うん、「すげーなー」で済ませちゃったから、細かい数値は覚えてないや。


『転移した時点ではほぼ1Gだったのですが、徐々に増加していったようです。現地の人は特に問題なく行動していましたが』


 なるほど。

 最初から重力が高かったわけじゃないのね。

 確かに、いきなり重力数十倍のところに放り込まれたら、ぐしゃって潰れちゃいそう。

 あ、でも、交通事故なんかの場合に、一瞬ならかなり高いGが掛かっても生存はできるって聞いた気がするな。それこそ三桁くらいの重力だったような。

 あくまで生きてるだけ、相応の重症を負うって話だけど。


 なんとなく、重力が高い=不思議パワーで上から押さえつけられる、みたいな気がしてたんだけど。

 実際には、自分の体が重くなるんだね。

 いやー、新体験だったぜ。


 できれば体験したくなかったぜ……。


『それにしても、第三界の方は脆いのですね。無事に生存できる世界を探すのが大変です』


 脆いのかはよくわからんですけど。

 今のところ、無事に生存できる世界が見つかっていないのは間違いない。

 かと言って、あらかじめ体を鍛えておいたら対処できるレベルでも無さそうだし。


 そうだ、現地の人たちと同じ程度に肉体を強化してもらうのはダメですかね?

 あまりに差がありすぎると、あちらさんは軽く叩いたつもりが俺は重症とかありそうで怖いっす。


『物理体を改造するのはお勧めできません。魂の定着に支障が生じる可能性があります』


 あらー、ダメですか。

 まあ確かに、「かもしれない」を警戒したらそもそも転移に失敗しましたっていうのは頂けない。


 しかし、体を改造って。悪の構成員っぽい気がするのは俺だけですかね?

 正義のバッタ男も改造されてたんだっけ? だったらそう悪くはないのかな?


『では、次は第三界の方の身体強度を考慮して、元の世界と似たようなところへ送ることにしましょう』


 はーい。


 ……いやちょっと待って?

 今までの傾向からすると、「似たような」だと危なくないですかね?


 似たような大気だけど酸素が少ないとか、似たような感じだけど気温が高すぎたり低すぎたりとか?

 毒とか、害になるようなものが回避できないレベルで存在する環境も勘弁して欲しいです。

 前回のように空気が有害だったりとか、水が飲めないのも困るし。

 太陽光がニンゲン絶対殺す光線だったりとかね。


『(チッ)では、自然環境に関して、第三界の方が生存可能な範囲に限定しましょう』


 えーと、ありがとうございます?

 舌打ちが聞こえたような気がしたけど、きっと気のせいだな。

 ここで修正しておかなかったら、また簡単に死亡してしまうような世界に送られてたんだろうか。

 ははは、まさかねー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る