第11話 タイムカプセル企画

5月ともなれば、本州ではもう半袖で過ごせているというのに、日本で唯一の冷帯気候である北海道は、永遠に長袖が脱げない。今日も薄手のアウターを羽織って大学へ向かう。

'佐藤'の名札を在室にし、誰もいない研究室へと入る。

博士課程2年目の俺は、後輩たちにテーマを与えつつ、自分の研究もこなさねばならない。

もうすぐ夏の学会が控えており、自分も後輩も発表に向けて毎日遅くまで研究室にいる。

研究室生活は、正解がない中をもがく毎日であるが、実験も、仲間たちと切磋琢磨するのもとても楽しい。

俺が到着してから一時間ほどたつと、教授や後輩たちがぞろぞろとやって来た。

みんな眠そうに各々と持ち場へといく。

いつもなら、ゆっくり後輩たちと会話をし進捗確認をするのだが、今日は夜にやらなければならないことがあるため、マッハで実験を進める。

小学校の同窓会委員である俺は、タイムカプセル掘り出しの企画をしなければならない。今日は他の同窓会委員とオンライン会議をするのだ。

なんでこんなクソ忙しいときにタイムカプセルなんだ…!とは思うが、あの頃の友達に会えると思うと楽しみだ。なるべく多くのクラスメイトに参加してもらえる企画にしたい。

クラスメイトに会うのは俺にとって大事な行事であるため、学会発表準備と平行して気合いをいれて企画していた。


予想通り、打ち合わせまでに時間的余裕を持つことはできなかったが、定刻に間に合った。


会議に入室すると、ものすごく懐かしい顔ぶれが揃っていて、疲労も忘れて頬が緩んだ。

「では、皆さん揃ったようなので、タイムカプセル企画の打ち合わせを開始します!乾杯ー!」

威勢良く進行してくれたのは、同窓会委員長の竹田進。小学生の頃から変わらず便りになる。

「打ち合わせなのに、まず最初に乾杯って!いいのかよ!(笑)」今日の真面目担当が突っ込み、ひと笑い起きた。


企画の前に、まずは成人式ぶりの再開を楽しんだ。俺は成人式に参加できなかったため、小学校卒業以来の再開である。みんなのやり取りを聞き、懐かしさに浸っていた。


「おいおい健太郎、なに聞き役に徹してんだよ、らしくねーなー!」

みんな酔いがまわってきたあたりで、進にいわれた。

俺はハッとした。小学生のころは進とボケまくっていたはずなのに。あの頃のキャラクターはいつからなくなったんだろう。

「あはは、たしかにそうだな‥」

愛想笑いしかできなかった。空気を凍りつかせたかと思ったが、みんな酔っぱらっているため、俺に注目することはなかったのが幸いだった。

「よーし、そろそろ真面目に企画の話をするか!」

このあとは、タイムカプセル企画についてしっかりと議論をし、決めるべきことはほぼ決まった。素晴らしいメンツだ。

「さすがに夜遅くなったな、、、金曜日とはいえ、はっちゃけ過ぎるのは良くないな!そろそろおひらきと言うことで!また日付が近くなったら最終確認しましょう!おやすみなさい!」

進の進行により、極めて順調に楽しい打ち合わせ(飲み会)が終わった。


会議から退室すると、楽しい雰囲気と共に、モヤモヤした気持ちが残った。

俺ってこんなやつだったっけ?

小学生の頃の自分の思考やクラスにおける自分の存在を思い出してみると、当時の自分は今の自分とはまるで別人で、今の俺にとっては憧れのような、少し遠い存在に思えた。


頭に軽い衝撃を受けたような感覚で、しばらく干渉に浸っていたが、いつの間にか眠気に呑まれ、心地よく就寝していた。






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