第10話 よみがえった想い ~夏実~

翔太に会って、久しぶりに明るい気持ちになれたので、この週末は、ずっと放置していた部屋の片付けをすることにした。実は、実家に引っ越してきたばかりで、引っ越しの片付けが完了していなかったのだ。

ダンボールをどんどん空けて、解体していくと、最後のダンボールから、学生時代のアルバムが出てきた。とても懐かしい。せっかく翔太に会ったことだし、久しぶりに小学生の思い出に浸ることにした。


小学生のころの私の髪は、たしかに長くてきれいだった。翔太も小学生にしてはとても整った顔立ちだと、改めて思う。

やはり、翔太ばかり探してしまう。ここ十何年か忘れていた翔太への想いが、どんどんよみがえる。小学生の自分に感情移入し、まるで翔太に恋をしているかのような気持ちになった。小学生ながら、一丁前に恋をしていて、昔の自分が可愛く思えた。


読み進めていき、ついに卒業式の写真まできた。卒業式の日は、翔太と一言も話さなかったため、悲しい思い出である。卒業式で話さなかったのはシンプルにタイミングがなかったのもあるが、何となく話すのを遠慮してしまったのだ。



卒業式の2日前に、ひかりちゃんが翔太に告白して、両思いだったと女子の噂で聞いた。まあ、そうだよな、お似合いだもんなと自分に言い聞かせたが、やはり悲しかった。

もしかして、翔太がラブレターのことを私に聞いたのは、ひかりちゃんにコクられて、両思いになったことが嬉しかったことを、私に伝えようとしたのか?と、惨めさと悔しさが混ざった気持ちになった。

でも、ひかりちゃんは活発でかわいくて、翔太とお似合いだと、心から思っていたため、納得はしていた。


悲しくはなるものの心のどこかで、噂は嘘なのではないかと思う自分もいた。

ひかりちゃんのことだから、好きな人と両思いになったら、嫌みなく喜びを顔に出すはずだからだ。とても素直で感情表現が美しい子なので、嬉しいときはその様子が見てとれるはずなのだ。

卒業式間近のひかりちゃんは、特にそれまでと変わらず、むしろおとなしかった。

ひかりちゃんの様子から、両思いにはなっていないのは間違いないと思った。でも、噂を聞いてしまった私は、小心者だったため、なんとなくひかりちゃんに譲った方が良い気がして、卒業式では翔太と積極的に話すことをしなかった。これでいいのだと、自分に言い聞かせて、他の友達との最後を大いに楽しんだ。



一通り小学生の頃の思い出を振り替えり、結局最後は切ない気持ちで終わってしまったが、私は、「この切なさがまさに青春だ」とセンチメンタルな気持ちを楽しんでいた。もし私が翔太に告白してフラれていたら、この前のように楽しく話すことは無かっただろう。


そう思うと、小学生の頃翔太に想いを伝えなかったのは正解だったかもしれない。


そういえば、小学生の頃、学校行事としてタイムカプセルを埋めされたことを思い出した。

30歳前後で掘り返すことになっていたと思う。

もうそろそろ掘り返す歳なのではないか?

もしかしたら、翔太に会ったのは偶然のような必然だったのかもしれない、、なんて少女漫画のヒロインのような台詞を思い浮かべ、ひとりで青春気分にひたり、週末を終えた。

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