第9話 写真と佐藤健太郎

俺は普段クラスでは特定の人とつるむことはなかったのだが、幼馴染みであり親友の、佐藤健太郎が同じクラスにいた。

健太郎は口に出していなかったが、高山のことが好きだったと思う。健太郎は運動神経抜群でおもしろく、まさにクラスのムードメーカーだった。男子からも人気があり、俺ももちろん健太郎のファンだった。俺は仮に健太郎と高山が両思いになったら、心から祝福できるくらい健太郎のことは大切に思っていた。しかし、だからと言って高山のことを譲ろうなんて思ってはいなかった。好きな女の子の話にだけは触れないようにし、健太郎との仲を保った。


高山から例の写真を受け取ったのは、放課後だった。今思うと高山は俺が一人になるタイミングを待っていたのだと思う。その日に限って、俺はずっと健太郎と他の友達と謎のじゃんけんに没頭して盛り上がっていた。

きっと高山はしびれを切らしたのだろう。少し気まずそうに、少し隠しながら袋を渡してきた。

俺は元々テンションが上がっていたこともあり、高山からのプレゼントに大いに喜んだ。その場で袋を開けたくて、高山に「開けて良い?!」と目を輝かせて聞いた。

高山は「うん、まあ、いいけど‥」と歯切れの悪い返事をしていたが、許可してくれた。

このときの俺は、少し悪い考えをしていた。高山からものを受け取るということは、健太郎に対して少しマウントをとることになるため、敢えて大っぴらにしたかったのだ。

開けてみると、写真が入っており、「母親からね!お母さんに渡してね~」と高山は言って去った。母親への用事かとガッカリしたのもつかの間、その写真には健太郎も写っていた。とっさに健太郎から見えないように隠そうとしたが、時すでに遅し、健太郎はなんのリアクションもせずに、ただ写真を眺めていた。すぐに笑いを取りに行き、他の友達はなんの違和感もなく話を続けていたが、俺は健太郎の、一瞬の切なそうな表情を見逃さなかった。

俺は少しでもマウントをとろうとしたことを、悔いた。このような形で健太郎に勝とうなんて思っていないし、何よりも健太郎を傷つけてしまったことがとてもショックだった。


この件の後3日くらい、健太郎は俺との直接対話を避けていたように思う。他の男子が俺と高山をもてはやしたり、健太郎と高山の話をするするようなことになっていたら、健太郎とは仲の良いままではいられなかっただろう。

良い仲間たちに囲まれ、俺と健太郎も少し大人な対応ができたため、時が解決し、健太郎とは元の関係に戻れた。健太郎とは、今でも仲の良い友達だ。



最近、健太郎とも会ってないな。元気かな。今なら健太郎と、高山についての話をしても良いのではないかと思う。

次の連休辺りに、声をかけてみるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る