第7話 また会いたい
札幌から帰った翌日、会社で待ち構えていたのは、大量の業務だった。3日も有給を使ったのだから、仕事がたまるのはあたりまえだ。3日間、仕事のことを考えずにダラダラしたので、その負い目もあり、少しだけやる気が出た。
新人の私から見ても、このグループの仕事の進め方と雰囲気は、やはりおかしい。若手からベテランまで、みんなが仕事を押し付けあっているのがよくわかる。新人もその押し付けの対象だ。仕事を押し付けられるのは、よく言えば、裁量権が大きいということにもなるのだが、右も左も分からないまま押し付けられても、ろくなできるわけがない。何か案件を任されたら最後、その案件について全部責任をとらされる。
先輩に分からないことを聞いても、「自分もよく分からないから◯◯さんに聞いて」と、たらい回し。
そんな中でやっとの思いで作った書類を、確認してもらうと、たくさん添削されて戻ってくる。中にはコメントに負の感情を込めてくる人もいて、読むだけで気分が悪くなる。
とまぁ、グループの嫌なところを考えながら、目の前の仕事を最低限の労力でこなした。
一生懸命仕事をすると、「こんなに頑張ったのに‥」という気持ちが出てきて、精神が崩壊するため、「言われたことしかやらない人間」として仕事をすることで、精神の核の周りに盾を作っていた。言われたことのみをやるというのは、本来の私とは正反対の考え方であるため、心のどこかで常に罪悪感は感じているのだが、自分を守るためには必要な思考だった。
今日は、そこそこ常識的な時間に退社することにした。
脳が干からびきる前に会社を出ると、外の空気の匂いやコンビニの明かりを、五感でゆっくり感じる余裕があり、駅までの道を爽快な気持ちで歩ける。
時刻表を再度確認すると、鈍行の前の特急に間に合いそうだ。
有給ボケせず、きちんと働いたご褒美で特急に乗ることにした。昨日と同じ席が空いていたから、またその席を予約した。
座席につく際、自分の席の通路を挟んだ向かいを、なんとなく見てしまった。まあ、いるわけないんだけどね。
そこには、くたびれたスーツをきて、靴を脱いで椅子を倒して爆睡しているおじさんがいた。
あまりにも気持ちよく寝ているから、おじさんもきっと頑張ったんだなと、愛らしく思ってしまった。
昨日の、突然青春時代に引き戻された感覚がまだ消えず、私の体の一部が少しだけ浮いているような、フワッとした気持ちで窓の外を眺めた。
脳を休ませるためにボーッとしようとしても、すぐに松田翔太との会話が思い出された。
なんだ、札幌から戻って落ち込んでたくせに、ちゃんと楽しかったんじゃん。
暗い気持ちを晴らしてくれた松田翔太には感謝の気持ちで一杯だ。
明日からも、小さな楽しみを見つけていこうと前向きな気持ちになった。
そして、またどこかで松田翔太に会えたらいいな。
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