第4話 あの頃 ~夏実~

松本翔太の少しハスキーな声と無邪気な笑顔は、私の悲しみを一時的に箱にしまってくれた。

松本翔太は、私の初恋の相手。

私の気持ちは伝えられないまま卒業をし、別々の中学校へ進んだ。

失恋をしたわけではないが、叶わなかった恋。

苦くはないが、淡い色のまま思い出として残してある。

松本翔太は今も相変わらずかっこよかった。小学生のころとは異なり、年相応にかっこよくて、知り合いであることを誇りに思う程だ。


「小学生の頃、私の髪の毛すごいいじってきたよね!なんだったのあれ!」

「男は長くてキレイな髪が好きなんだよ!お前の髪まっすぐできれいだったからさわって遊んでた!(笑)」

「あれ結構いたかったんだからね!ムカついてたんだから!」

恋をしていた頃の鮮やかなな記憶が鮮明に思い浮かぶ。


「あとさ、翔太がひかりちゃんからラブレター貰ったことを、私が知ってるっていったとき、なんでショックだったの??あれも謎だったんだけど!(笑)」

思い出話に花を咲かせていた中、気になっていたグレーなことを聞いてしまった。


「あれ?そんなことあったっけ??ひかり?あぁ、沢田か。やばい、覚えてない。」


あ、そうか、私は好きだったから猛烈に覚えてるけど、翔太は覚えてないよな‥


当時、私と松本翔太は、普通の友達よりも仲良い度合いは少し高かった(と思う)。

卒業まで1ヶ月を切ったくらいのころ、翔太から、「高山って、俺が沢田からラブレター貰ったこと知ってるの?」と聞かれた。

五年生のとき、ひかりちゃんが翔太にラブレターをあげたことは噂になっていたので、その事かと思い、知ってると答えた。

まあ、私は翔太のことが好きだったので、知っていたい情報ではなかったが。

なぜか翔太は、私の回答を聞くと狼狽えたようにその場を去っていった。


その数日後、男友達から話しかけられ、「高山がラブレターのこと知ってるってこと、翔ちゃんすごくショックだったみたいだよ」と伝えられた。

小学生の私は混乱極めた。

なぜショックなのか?ひかりちゃんが翔太のことを好きなのはみんな知っているし、なぜ今さら聞くのか?

混乱極めつつも、もしかしたら、翔太にとって私は、周りの女の子よりも少しも特別なのではないかという期待があり、心臓がドキドキした。

しかし、引っ込み思案の私は、その後翔太とは何の進捗もないまま卒業してしまった。

写真すら取らなかった。写真を取らなかったことは今でも本当に悔いている。


松本翔太が私のことを好きだったのか、ずっと気になっていたため、うっかり本人を目の前にして聞いてしまった。


当の本人は覚えていない。ショックだったが、私の大事な思い出に傷がつかなかったので、これでよかった。


小学生の頃の話をしていたら、あっという間に目的地に到着した。私も翔太も実家に帰るため、同じ駅で降りた。

まさかこの慣れ親しんだ駅の改札を、翔太と通るとは。私はうかれていた。

「翔太のおかげですごく楽しかった!ありがとう!元気貰ったよ!」

心の底から思った。

「またまたぁ、ただ話しただけじゃん!こちらこそありがとう!すげー楽しかった!また話そ!」


彼の「また話そう」はどのくらいの効力があるのかなぁ、なんて、すこし切なくなりながら、帰路についた。











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