第5話

僕は絶望した。


視覚に加え、聴覚まで失うとは。


命をこの世に留めた代償にしてはあまりに大きすぎる。


むしろ、このまま死んでしまった方が楽なのではないか──。


僕は横たわったまま考えた。


冷気が漂うのできっと夜なのであろう。


眠らずに考え続けた。


このベルトが外されたら、壁に沿って歩き、建物の外に出て……。


いやダメだ。看護師の目を盗んで外に出るのはほぼ不可能だろう。それに、外に出られたとしてどう死ぬのだ?道路に飛び出すにもタイミングがわからない。屋上から飛び降りるのはどうだ?いや、大体の病院の屋上には出られないようになっている。


どうしたら、どうしたら──。


僕は泣きながら考え続けた。


肩を震わせ嗚咽しているにもかかわらず、何も聴こえない。


しばらくすると看護師が僕の左肩の袖を捲り上げ、数日前のように注射をした。


僕は、数分も経たずに眠りに落ちた。

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