第4話

視覚を失った僕は、耳に詰め物をされたまま数日をベッドの上で過ごした。妻は右半身の暖かい時間に会いにきてくれて、冷気が漂ってくる時間に帰っていく。まだ食事はなく、点滴が左腕にされている。


看護師がかわるがわる僕の点滴を刺し直したり僕の体勢を整えたりオムツを変えたりする。


頭の痛みも少しずつ薄れてきた。


そろそろ耳の詰め物を取ってくれないかと、何度か看護師らしき人間がいる時に訊ねた。


まだ対応してくれないようだ。


翌日も妻は手を握り、肩を叩いた。


看護師らしき者の手が僕の左腕のベルトをはずす。妻は僕の腕を取り持ち上げた。そして自分の肌に触れさせる。


これは……妻の細い首だろうか。


そして。


振動が伝わってきた。何か声を出して伝えようとしてくれているのか。


腕を戻された際に自分の耳に触れた。


あれ?


詰め物がない。


僕はようやく気づいた。



聴覚を失った。



離れていこうとする妻の腕を慌てて引き留め、僕は声を上げた。


「助けてくれ」


頬にハラハラと水滴が落ちてくる。妻の涙の理由、暗闇と静寂の理由に気づいた。

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