第2話

何時間経ったかわからないが、目が覚めた。


まだ深夜か──。


相変わらず何も見えないし聴こえない。


トントンと肩を叩かれる。


また叩かれる。


トントン、トントン、トントン……。


なんだか妻とよく似た香りがする。同じシャンプーを使っている看護師かな?


早く耳の詰め物を取ってくれ。


僕は声を上げた。


「耳の詰め物を取ってください!」


何もしてくれない。


「せめて部屋を明るくしてください」


何もしてくれない。


頰に冷たい何がが落ちてくる。


水滴?


左手を握られる。そこで気づいた。


妻だ──。


関節の形、指の長さ、ツルツルとした短い爪、冷え症でいつもひんやりとしたその小さな手は、微かに震えていた。


お見舞いに来てくれたのか、僕は嬉しくなり、妻の名を呼んだ。


頬にハラハラと水滴が落ちてくる。


そうだ、脳の大手術をしたのだから、生きていた僕に対して嬉し泣きでもしているのだろう。妻は泣き虫なんだ、よく知っている。


しばらくして手は離れ、濡れた頬が拭われた。


またお見舞いに来てくれるかな──。そう考えながら僕はまた朝になるまでと思い、目を再び閉じた。

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