『通勤』 20


 オールマイティー司書さまは、所長さんは持たない、でっかい応接室を持ち、そこには、豪華な応接セットがある。


 こういう日常の在り方しか見てない人には、夜、やましんの家に来ている姿は、想像もつかないだろう。


 小さな台所で、15タイプの古い液晶テレビを、ゴタゴタなテーブルの上で、うつ向きながらブスッと見ているなんて。


 しかも、晩御飯は、ぼくが帰りのバスの売店で買ってあげるお弁当である。


 彼女が、ぼくの奥さんであることは、別に秘密🙊ではないが、積極的に紹介されているわけでもない。


 つまり、知らない人のほうが、圧倒的に多数である。


 彼女は、僕の自宅では、あまり出すぎない。


 勉強は、自分のでかいマンションでやる。


 仕事の話は、余程でないと、やらない。


 ぼく以外では、相手になるまい。



 さて、一度は壊滅した人類社会だが、銀河連盟の主導する世界には、善いところもたくさんある。


 プライバシーの重視もそうだ。


 伝統的な衣食住を保護する反面、べつに、従わなくてはならないという、ローカルな圧力は極力排除していた。


 排除していた、というか、様々なものが破壊され、生態系もごちゃごちゃになり、伝統的な町や村などの多数は、消滅してしまったから、他にどうしようもない。


 銀河連盟の中には、自分達の文化を持ち込みたい一派もあったが、多数ではなかった。


 むしろ、地球人を排除すべきだ、という意見の方が、多いくらいだった。


 地球人のプライドなんて、宇宙では、大した意味を持たなかったのだ。


 それでも、地球人に、再起の機会は与えるべきだという意見が、より多数を占めたのは、幸いだったというべきだ。


 また、地球の文化の独自性を重視する科学者や実力者もあったのである。


 地球人が、あまり、宇宙に進出できていなかったことも、幸いしたからである。



 『先程は、失礼しましたね。』


 オールマイティー司書さまが切り出した。


 『所長さまは、さぞ、お怒りでしょう。』


 秘書さまが、ティーを持ってきた。


 ここの、ティーは、実に美味しい。


 図書館とは、いかにも、レベルが違うと言うべきかと思いきや、公費でティーは買えないので、これは、職員が出し合って買っている。


 早い話し、オールマイティー司書さまと、所長さんの拠出が違うのだと思う。


 思うというのは、控えめな表現で、予算に会わせて、地球にてお茶を仕入れているのは、実は、ぼくであるから。


 馴染みの御茶屋さんに頼んでいる。


 地球には、まだ、核戦争の遺産で、放射線量が高い場所もあることはあるが、適切な栽培がなされていれば、大丈夫である。


 火星での栽培もしているが、あまり、美味しくはない。


 だから、地球産が良いには違いない。


 『今回は、銀河連盟が、絡んでいるようです。』


 『ほう。絡みかたは?』


 熱いお茶を、ずずっと、すすりながら、尋ねた。


 『良くない絡みかたです。そもそも、あの手稿が、非常に怪しいみたいですから。』


 『そりゃ、オカルトですな。疑似科学というか。』


 『もとから、怪しいのです。』


 オールマイティー司書さまは、ぼくを、睨み付けている。


 何時ものように。


 

        🍵😌✨

 


 


 


 


 

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