『通勤』 19


 そこに、またまた、邪魔が入った。


 オールマイティー司書さまから電話である。


 出ないわけには行かない。


 『はい。ぼくです。』


 『ああ、あなた、ちょっと、来てください。仕事の話です。』


 『はあ。わかりました。』


 仕事の話です、と、言われたら、業務命令である。


 ただし、所長に、外出許可をもらわなくてはならない。


 この場合、所長は正当な理由があるならば、拒否できるが、オールマイティー司書さまに、説明する必要がある。


 それが、所長には、ひどく屈辱的なのだ。


 だから、拒否はしない。


 

      ********


 ぼくは、オールマイティー司書さまの部屋に入った。


 建物自体が、独立した、司書館である。


 ここで、火星から、太陽系の端までの、全ての図書館の司書を管理している。


 所長さんの方は、いわゆる、図書館官僚機構の一部だが、司書は、司書庁の配下にあり、オールマイティー司書さまは、司書長官の直轄下にある。


 大臣と言えど、あまり、無理は言えない。


 オールマイティー司書さまは、実は、所長さんたちの、監視役でもある。


 ぼくは、両方の配下にある。


 だから、ぼくは、所長さんからしたら、スパイみたいなものだが、所長さんには、ぼくの人事に関して、一定の権限があるのだ。


 前にちょっと言ったように、左遷させるのはわりに簡単で、さらに、くびにすることも、まあ、可能である。


 ただし、お互いが牽制するから、滅多にはないが、たまに、所長さんのルートと、司書庁のルートが、ぶつかることがある。


 所長さんは、大臣の配下だから、政治的な理由が、実務に入り込むことがある。


 司書庁は、政治には、関わらないのが、モットーである。


 一番極端な場合は、いわゆる、焚書事件だ。


 新地球政府がようやくできたあと、一回だけ、焚書事件があった。


 実は、真相は未だに分からない。


 銀河連盟の中の、ある勢力が、地球政府に圧力をかけて、地球の宗教的な書物を、出来るわけもないのに、可能な限り、排除しようとしたことがある。


 代わりに、ある宇宙宗教を、地球に導入しようと企んだと見られている。


 遥か昔に、当時の地球の大国が、植民地拡大を、宗教的な拡大とセットにしてやったみたいなことを、やろうとしたのだと、言われている。


 それから、300年くらい後に、地球は、核兵器や、化学兵器を大量使用した、ばかな世界戦争をしてしまったことから、地球人類は絶滅寸前になり、統合力がまるで無くなり、介入した銀河連盟に助けられ、やっとこさ、地球人類は生き延びた。


 新しい地球政府は、銀河連盟の指導によって作られた。


 だから、地球政府は、長らく銀河連盟の指導下にあり、その命令には逆らえなかった。


 そんな時代だったが、銀河連盟の内部も、一枚岩というわけでもなかったのだ。


 地球から、宇宙オーケストラが飛んだのは、そうした頃のことだった。(『オーケストラ宇宙を行く』参照。(未完))


 

    ********


 


 


 


 


 


 

 


 


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る