『通勤』 18
つまり、彼女は、家庭などに時間を取られたくないわけ。
ぼくは、文句言うつもりもないし、奥さまのような超越キャリアでも、普通のキャリアでもない、ノンキャリアよりさらに下の、最底辺だし。ただ、司書というだけ。
もっとも、現在は、最底辺がキャリアを追い越すことは、制度上では可能性があるし、ごく少数の実例がある。
それでも、どうにもならないのが、オールマイティー司書さまなどの資格持ちである。
じゃ、試験を通れば良いではないか。
いやいや、ひなこさんが通らないのだから、無理というものだ。
なお、念のためだけど、ひなこさんといいますのは、名字である。
マリア・ヒナコ、というお名前である。
そこで、ぼくは、新しい書籍の整理を始めていた。
じつは、でかい核爆発で、長らく廃墟となっていた、トウキョウ近郊の地下から、大量の書物が出てきたという。
どういう経緯で生き残ったのかは、もはや分からないらしいが、なんらかの、シェルターだったかもしれないという。
しかし、何故だか、地球に引き取り手がなく、ならば、ということで、火星で頂いてしまった。
所長さんは、あまり、喜ばしくはないようだった。
『がらくたばかり、集めている。』と言われたが、これまた、オールマイティー司書さまの一言で、決まってしまった。
夫婦で、自分を貶めるのか?
とまで言われたが、ぼくは、所長さんの具申があれば、辺境地区にすぐ飛ばされるだろうが、もし、オールマイティー司書さまの怒りに触れると、所長さんも、ただではすまないかもしれない。ただし、彼女は、私的なことを、仕事に持ち込んだりはしないことは、みな良く知っている。所長さんもだ。つまり、オールマイティー司書さまは、送られてきたリストを見て、書籍の内容に、何故だか、かなりの興味を示したというわけだ。
それが、ぼくの興味と、同じとは限らない。
しかし、人間は、時に感情に惑わされるものだ。
所長さんは、それも、知り尽くしているが、なぜ、いま、自分が火星にいるのかは、彼にはかなり理解不能なことらしい。
難しいものなのだ。
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