『通勤』 17


 所長さんは、いたくご立腹らしく、くちもきかずに、自室に籠った。


 こうした、ストライキは、わりにしょっちゅうである。


 まあ、もっとも、そうやって落ち着いてもらった方が、こっちは有難い。


 すでに、開館時間は過ぎ、アルバイト採用のひなこさんが、万事うまくやってくれている。


 ひなこさんは、地球中央大学の文学部、総合文学科を首席で卒業した逸材であり、はっきり言って、所長さんも、ぼくなんかも、太刀打ちできない実力を持っている。


 その博学ぶりは、ほとんど驚異的であり、地球の10か国語を自由に操り、その倍くらいの、消滅した言語を読み書きできる。


 趣味は、宇宙科学と、地球クラシック音楽であるという。


 ピアノの名手でもある。


 テニスは、準プロとか。


 準、というのは、プロではないが、プロ級であるという意味だ。


 そんなすごい人が、ぼくの半分、所長の三分の一くらいの給与で働いている。


 もっとも、彼女の狙いは、オールマイティー司書さんになること。


 そのための試験は、最も難しい地球国家試験のひとつとされている。


 彼女をもってして、二回失敗している。


 一万人受験して、せいぜい、ひとり通ったら、奇跡と言われる。


 なんで、あんたの配偶者が、そんな凄い人なのかだって?


 凄すぎて、相手ができる人類は少ないのだ。


 同じレベルの人か、ぐっと下がる相手でないと、やってられないのである。



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