『通勤』 8
『ヴォイニッチ手稿』は、名前の通り、ヴィルフリド・ヴォイニッチ氏(1865~1930)により、1912年に再発見された、謎の文書である。
誰が、このような、不可思議な『絵本』を書いたのかも分からないが、そもそも、何が書いてあるのか自体が、いまだ、解読されていないとされる。
20世紀から、21世紀にかけて、沢山の俊英、天才たちが挑み、解読されたと宣言されたことも、1度ならずあったのだが、間違いなし、と、確認されたことは、ぼくの知る限りは、ないのである。
で、頭の働かないぼくには、まずもって、さっパリわからないと、宣言しておく。
文書には、通しの番号が打たれていて、これだけは誰にもわかるが、それは、16世紀の書体で記されている。つまり、それは、これが、宇宙人によるものではないだろうと、思わせる。
使われた羊皮紙は、1404年から1438年ころに作られたという鑑定が2011年に出ている。
文書全体から、8枚が抜け落ちていて、246頁分が20世紀に残されていた。
全体的に、おそらく、植物学や、天文学、または占星術、生物学、薬学など、多岐にわたる分野についての、挿し絵と、たぶん、その解説文と思われるものが、緑、茶色、黄色や、赤などの、ほとんど、漫画か、子供の書いたような趣さえある様子の、まさに、『絵本』として成り立っている。
ただし、いたずらにしては、念が入りすぎていて、冗談文書とは、ちょっとばかり思いにくい。
絵自体は、あまり高等なものとも思えないが、非常に独創的だ。オーラがあると言ってもよいかと思う。
たとえば、書かれている植物は、現実には存在しないものばかりだ。
衣服を着けない女性たちが、お風呂か、プールみたいなものに浸かっていたりもする。それらは、なんらかのパイプでつながっていて、緑色の液体が全体を包んでいる。
天文図みたいなものもある。
しかし、どうやら、現実の天文現象ではないらしい。
だから、さまざまな知識のあるヒトが作った、もしかしたら、幻想世界か、SFみたいな他所の世界の想像か、または、さらに、やはり込み入った、しかし、なんらかの意図、たとえば、金儲けみたいな、がある、いたずら的なものかもしれない。
文章としては意味のない、絵と合わさって、全体が一種のアートを構成するのかもしれないが、読めない文字と文章には、確かになんらかの規則性があり、デタラメに並べたのではないとも、されてきた。でも、読めない。
もともと、秘密の暗号なら、なにか解読する鍵がないと、読めないものかもしれないが、読めない暗号に意味があるだろうか?
起源がどこにあるのかも、解明されてはいないが、常に名前が上がってくるのは、まずは、名高いロジャー・ベーコン氏(1214~1294)。だが、羊皮紙の作られたのが、鑑定が正しいなら、あと過ぎるかもしれない。
さらに、ジョン・ディー氏(1527~1608、9
?)と、エドワード・ケリー氏(1555~1597)だ。
結局このふたりが、どういう関係にあったかは、よくわからない部分もあるようだが、一時期いっしょに活動したことは、確かにあった。
で、ケリー氏が、ディー氏を騙したり、さらに詐欺を働くために作ったとも言われる。
ケリー氏については、そもそも、非常に評判が悪い人らしい。
しかし、一方的に悪いのかどうかはわからない。
あまりに、ディー氏に頼りにされて、仕方なく、という筋もなくはないという。
この時代は、近代科学が生まれようともがいていた時期で、まだ、降霊術が真剣に行われ、悪魔の存在も否定されていない時代だろう。(宇宙時代の今も、信じている方もある。火星の悪魔の話しもそうだ。)
結局のところ、この謎の文書の誕生とその後の動きを、はっきり示した確実な証拠は、あまり出ていなかったらしい。
しかし、その実物は、ヴォイニッチ氏により発見されて以来、この世に存在した。
だから、ヴォイニッチ氏による、贋作ではないか、という意見もあったらしい。
しかし、ゲオルグ・バレシュ氏(1585~1662)という人が所有していたことは、確実で、つぎに、キルヒャー氏という人が所有した。
バレシュ氏から、キルヒャー氏に宛てた手紙が、残されていて、そこでは、かつてルドルフ二世(ボヘミア王、神聖ローマ帝国皇帝)が購入したこともあったとされているようだし、この手紙は、ヴォイニッチ氏が購入したときにも、付録になっていたという。
そのあとは、しばらく消息がわからないが、ローマの教皇の大学図書館あたり、が所有していたようだという。
1969年に、イェール大学に寄贈されて、それ以来は、厳重に管理されてきていたのだ。
その中身は、ネットワークで、だれでも、カラーでみることができていた。
第3次大戦までは。
第3次大戦なんて、当時のほとんどの人たちは、やりたくなかったらしい。
経済的な利益や、国の発展が阻害されてしまう。
一部の支配層が生き残っても、国民がいなくなったら、なんにもならない。
それは、核弾頭や、生物化学兵器なんていう、やっかいな物が、一部の国の手元にあったことも、話をややこしくした。
第2次大戦で使用されて以来、しばらくは、多くの人は、核兵器の使用を望まなかったし、もし使用されたら、地球はお仕舞い、と考えられてきたが、一部の独裁者、あるいは、独裁的な人たちは、21世紀になって、ちょっと違うことも考え始めていた。
つまり、核弾頭を使ったら、後始末が大変になることよりも、自分たちの勝利が、新しい未来を作ると、確信していたらしいふしがある。
それが、あくまで、合理的な、権力的な発想か、オカルト思想的な発想、たとえばなにかに指示されたと思ったか、病的だったのか、黒幕がいたのか?
最終的に、なぜ、そうなったのかは、現在まで、必ずしも解明されていない。
第3次大戦は、西暦2000年代になって、分散的に、また、従来の武力紛争だけではない、新しい情報戦争として、先に開始されていたと、現在は考えられている。
それから、すでに存在していた武力紛争が、各地で散発的に高まり、ある時点で、まず化学兵器が暗黙裏に使用され、やがて、次の時点で、いまだ戦況が思わしくなく、現状打開のために、その、ごく限定的な核兵器の使用が可能な時代を開こうとしたのだろうと言われる事態、が起こったのだ。
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