『通勤』 3

 ドッキングは、あっという間に完了する。


 接続チェックも、車掌さんにより、行われる。


 すると、開店である。


 やましんは、席を立って、レストランコーナーの手前にある売店に行く。


 窓口が広い上に、ロボット店員さんが対応しており、抜群に要領が良い。


 支払いは、体内チップが対応する。


 やましんは、好きではないが、そういう法律になっているから、どうしようもない。


 早い話し、社会から脱出することが、まず、できない。


 ただし、裏業界というものは、いつの世にもあるもので、体内からチップを取り出す秘密組織や、医師がいるという。


 報酬は、非常にお高く、一般市民が、そこまでするメリットは、まず、ない。


 つまり、余程の場合に、限られる。


 犯罪集団の仲間たちなどには、必要である。


 また、徴兵制がある国では重要だが、特に独裁国家では、これは、恐怖のシステムになる。


 民主国家では、医療、安全、税金、災害対応、国民保護、戦争などの緊急事態時の措置が主目的だが、むかしの、宇宙人による拉致事件みたいなイメージもあり、年齢層が高いほど、懐疑的になりやすいらしい。


 早い話し、どこにいても、捕まってしまう。


 売店を管理するコンピューターは、『アニーさん』と呼ばれる。


 この名称は、実は、極めて重要な意味を示している。


 宇宙生態コンピューター、アニーさんは、いわば、地球のみならず、太陽系全体を管理している存在なのだが、ほとんどの人間は、知らないのだ。


 アニーさんは、言った。


 (つまり、対応するすべてのロボットさんは、アニーさんである。)


 『おはよう、やましんさん。今日も元気だ弁当がうまい。』


 『ああ、アニーさん、おはよう。やはり、いつもの、朝セットを。和食ね。こーシー付きで。ミルクのみ。』


 『了解しました。やましんさん。ポイントが、たまりました。次回は、無料になりますよ。』


 『おー、ありがたい。じゃ、また。』


 朝食セットは、注文した直後に、すぐ、ほかほか状態で、テーブルに現れる。


 やましんは、さっさと席に帰って、飲み物だけ取り出し、あとは、座席テーブルを出して、じゅわっと、前側に置いた。


 まあ、むかしの、新幹線とか、リニアとかと、似たようなものだ。


 さらに、朝食セットというものは、昔からあまり、変わらない。


 ごはん。みそ汁。魚の煮付け。漬物。卵焼き。こんぶ。納豆、ふりかけ。というあたりである。コーヒーあたりは、オプションになるが、割り引きされる。


 やましんも、コーヒーを付けるのが、定番である。


 食べ終わったら、ダストシューターに入れる。


 すると、自動的に、再生産用の資材になって、次の仕事に廻される。



 で、これが、朝の至福の時間なのだ。


 やましんは、火星の私立図書館の司書で、特に音楽担当である。ただし、正社員ではないアルバイトである。


 きょうび、正社員なんて、全就労人口の2%くらいである。


 政治家にも、アルバイトが多い。


 だから、それで、普通なありかたなのだが、実際は、デメリットが大きいのは、事実なのである。


 その図書館を火星に設置したのは、タルレジャ王国の王女さまなんだとか。


 さて、やましんが、分厚い卵焼きをお箸に挟んだときであった。


 ピュア〰️、ピュア〰️、ピュア〰️❗


 と、緊急警報が、やかましく鳴った。


 やましんも、始めて聴くが、そういう仕組みがあることは、定期券を購入すると付いてくるパンフに書かれてはいた。


 つまり、なにごとか、のっぴきならない事が、起こったのである。


 すぐに、『どっか〰️ん‼️』という、衝撃音が、車内を駆け抜けた。


 


  ・・・・・・・・・・・・・



次回予告


『アニーさんを、甘く見たら、ちちち、だめっちな。』………


 アニーさん、危ない❗


 




 

 


 


 


 

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