『通勤』 2
……………
バスの運転手さんは、火星まで飛んで、地球時間の夕方、また地球まで戻ってくるのだそうである。
その間は、火星の移住地間の近距離バスの運転をしているとのこと。
さすがに、『地球〰️〰️火星便』は、所要時間は2時間弱程度だが、宇宙を飛ぶからして、ワンマンバス、というのは、禁止されている。
たから、車掌さんがちゃんと、乗務している。
緊急事態が起こると、この車掌さんが大活躍しなくてはならないが、めったにそうしたことはない。
しかし、バスが故障したというケースが、何回か起こっていて、車掌さんが宇宙遊泳作業をしたことがある。だから、車掌さんは、一級宇宙バス整備士の資格が必要になる。運転手さんは、二級でもかまわない。という、一見、不思議なことになっていた。
もっとも、宇宙バス運転手の資格は、かなりハードルが高いのである。
宇宙空間で最悪なのは、なんらかの、障害物にぶつかるというアクシデントである。
やましんは、しかし、これは、考えないことにしている。
『え、おはようございます。本日も、ヤマダの火星バスをご利用いただきまして、ありがとうございます。間もなく五千メートルに上昇し、ついで、宇宙空間まで垂直上昇いたします。最初の停留所は、『低層ステーション』です。火星までは、1時間50分を予定していますが、多少の前後は、ご了承ください。バスは、重力制御で運航いたしますので、ほとんど、不快な体感はありませんが、念のため、シートベルトをご着用ください。車内移動の場合は、ご面倒でも、手すりを掴みながら、なさってください。このあと、巡回いたします。
低層ステーションまでは、15分ほどです。
え、次は『低層ステーション。低層ステーション。』』
そう、言い終えると、車掌さんは、車内巡回をはじめた。
この『低層ステーション』は、我が国に属する、宇宙住宅団地である。
お金持ちでないと、生活が出来ない場所だ。
バスは、そこまでは、半分くらいは埋まっている。
200人乗りのバスなので、そんなに、混んだ感じはないのだが、7割くらいの人は、低層ステーションで降りる。
たいがいは、低層ステーションで働いている、地球に住む人たちである。
でも、乗ってる時間は、始発の、ながのステーションからでも、40分くらいである。
あ、念のために付け加えますと、むかしは、栄えた、とうきょうとか、おおさか、とか、きょうと、とかは、みな第3次大戦の熱核爆弾で消滅してしまった。
いまの首都は、ながの、である。
西のほうと、北のほうは、べつの大国に吸収されてしまった。
だから、一時期、低迷していたが、それでも、世の中は、分からないものだ。
いまは、新星ニホンこそ、地球最大の経済力を誇っている。
それがまた、紛争の元になったが、まあ、その話しも、割愛する。
太平洋の領海内に、新しい大地が、豊かな資源と共になぜか沸き上がり、必死で開発したのである。
なぜ、そんなことが起こったのかは、未だに謎のままだが、奇跡の少女が、絡んでるとも言われる。
新たな戦争をしようとした国もあったが、他との争いで自滅した。
まあ、我慢は、時に、得になることもあるのだ。
しかし、それらも、みな、大昔のことになった。
低層ステーションで、降りる人が降りてしまうと、バスの中は、がらん、とした。
中層ステーションと、高層ステーションは、素通りである。
ここには、バスの利用者は、あまりいないが、他社がちゃんと運用している。
ステーションを出発したら、すぐに、やましんが、待っていたものがやって来た。
『宇宙屋台』である。
ただし、かの『屋台皇帝』の系列ではなくて、地球の『ヤマダのバスの屋台』である。
つまり、このバス会社の関連企業である。
『屋台』、といっても、結構、でかい。
バスの半分くらいの大きさがある。
中層ステーションをねぐらとしているのだが、このバスは、そこには寄らない。
中層ステーションは、製造会社がほとんどで、その従業員は、若い人を中心に、寮に入っている場合が多いのである。
そのほうか楽だし、余計な通勤コストがいらない。
ただ、家庭がある世代になると、地球に家を買ったりするもするので、通勤組もある。
その人達は、専用の通勤バスを使うのが普通だ。
企業が資金を出しあって、通勤バスを運営している。
だから、やましんが乗るバスは、あえて、寄る必要がない。
宇宙屋台バスは、むかし、観光地の川下りなどで行われていた屋台売店舟が原点らしい。
朝の通勤時間帯は、屋台というよりも、売店である。
主力は、当然、人気朝御飯セットである。
ところで、低層の人工衛星は、420キロから、500キロくらいの上空にいる。
かつて、人類初期の国際宇宙ステーションは、413~418キロあたりを回っていた。
現在の低層ステーションは、もう少し外側で、600キロあたりを周回する。
20世紀の終わりから、21世紀の半ばにかけて、広義の第3次大戦があり、人類の協力は、もはやおしまい、というようなことになった。
つまり、複数の独裁者が、地球人類を支配することになる寸前まで行った。
奇跡を起こしたのは、正体不明の(良く分かっているとも言われるが、こう言い習わされている。)少女たちだったのである。
しかし、それは、常識なので、割愛しよう。
地球の周囲には、『ヴァンアレン帯』と呼ばれる、陽子と電子からできている、強い放射線帯が存在する。
この放射線を、確実に遮蔽するのは、必ずしも容易ではなかったが、現在は宇宙船も、宇宙バスも、この問題はとりあえず解決している。
とりあえず、というのは、時間の問題というものがあるからだ。
認識されていない問題が、いずれ現れないと、言いきることはできないから。
さて、それで、宇宙屋台は、さっささと、宇宙バスに接近し、真横に横ずけとなり、いわゆる、ドッキングした。
しゅわ〰️〰️〰️〰️、という、空気の音がして、ドッキングが完了する。
昔と違って、やることは、じつに早いのだ。
すぐに、バスの側面と、屋台の側面が合体したようになる。
バスと屋台が自由に行き来できることになる。
しかし、なにしろ、通勤バスだから、のんびりはしてられない。
合体しているのは、5分というところである。
やましんみたいな、サラリマンは、たいがいは、朝御飯セットを買って、バスに持ち帰る。
ただし、低予算宇宙旅行をする人がある。
物好きな高齢者か、若者である。
彼らは、時間の制限があまりない。
だから、一時間くらいかけて、ゆったりと朝食をし、次の火星便に乗り換えるという、テクニックを使ったり、するのである。
🍜 🍥 🍚
次回予告……………
アニーさんは言った。
『おはよう、やましんさん。今日も元気だ弁当がうまい。』
あらまあ、アニーさんが出てきましたよ〰️〰️〰️〰️。怪しい成り行きです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます