『通勤』~オールマイティー司書さまと、ぼく。

やましん(テンパー)

『通勤』 1

  『このおはなしは、フィクションです。』



 サラリマンの朝は、ひたすら忙しい。


 もっとも、サラリマンたちが、自分で忙しくしているわけでもない。


 昔からの、しきたりみたいなものである。


 忙しくない通勤なんて、通勤ではないのである。


 汗だくになって、ぼろぼろで、職場に到着しないと、なんだこいつ。やる気がないな、と、思われるのだ。


 しかし、その、通勤手段の進歩は、通勤範囲を広げる。


 かつて、人類は、やがて通勤という行動は、しだいに、なくなるのではないかと予測した。


 たしかに、そうした面もあったのだ。


 でも、そうではない側面も、たくさん出てきたのである。


 最大の誤算は、ロボットの失敗であった。


 複雑なネットワークにつながっていたロボットたちは、ある日、突然にすべて停止した。


 その原因は、未だに未解明なのだが、人類のロボットに対する期待度が、あまりに膨らみすぎて、ロボットたち自身が、集団自決したのではないかと見られている。


 かつて多発した、サラリマンの自殺と、同様の理由から、その、律儀な性格上、一瞬にして、果てたのではないか。


 反論する学者も多いが、ロボット心理学者を中心に、この仮説は、次第に証明されていきつつあった。


 いま、人類は、やり直しの途中である。


 ロボットたちは、人類を巻き込んで、世界中を、核弾頭で破壊しようとしていたことも分かってきている。


 有力者の人間を、コントロールしていたことも、分かってきた。


 しかし、際どい、ほんの少しの計算の差で、それはマザーコンピューターが最終的拒否をしたため、避けられたようだ。



 ま、そんなこととは、関係なく、やましんは、今日もご出勤である。


 かれは、満員電車や、満員バスには乗らなくてすんでいる。


 ただし、長距離通勤にはなるが、乗り換えは、一回だけだ。


 あ、このやましんは、20世紀から21世紀の頭に、めちゃくちゃな、筋の通らないお話しを、初期のコンピューターネットワークに書いていたやましんとは、べつのやましんらしい。



 子孫でもない。


 まあ、よくある名前なのだ。



 しかし、『どじ。まぬけ。』と、おくさんのびーちゃんから(はからずも、おなじ名前であった)日常的に言われているのは、同じである。


 びーちゃんは、やはり、朝御飯の支度はしてくれないので、夕べ買っていた、コーヒーだけ飲んで、スーツをきちんと着ることができず、半分引っ掻けながら家を出たやましんである。


 幸い、バス停は、目とはなと耳のすぐさきである。


 並ぶことは、まずない。


 この国の、交通機関が、時間にやたら正確なのは、昔から変わらない美徳である。


 『前のバス停を出ました。』


 という表示が来た。


 ここは、バスセンターから出たバスが、最後に地球で停車する場所である。


 次は、低層宇宙ステーションに止まる。



 『ぷい、ぷい〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️』



 時間ぴったりに、火星第1ドーム行きのバスはやって来た。



        🚍


            つづきます


 


 

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