国家元首を爆破せよ

鍵崎佐吉

爆葬

 かつてこの国の偉大なる建国者であるドガン・ボンバイェは、野蛮で悪辣なるテロリストの手によって志半ばで爆殺されてしまった。しかし誇り高き先人たちは決して卑劣なテロリズムには屈しなかった。彼の死に奮い立ち、悲しみを怒りに変えてこの国を大きく躍進させた。そして彼のその壮絶な死にざまに尊敬と哀悼の意を示し、自らの死後、その遺体を彼と同じように爆破せよと言い残してこの世を去っていった。これが我が国における爆葬の始まりである。

 そしてまた、彼と同じ志を持ちこの国の未来のためにその生涯を賭した男が一人、逝ってしまった。ああ、親愛なる友よ、チャッカ・ドゥーカセンよ。彼は長きにわたってこの国を導き、我々と共に希望の光を追い求めた盟友であった。いついかなる時もこの国の未来のために尽力し、死が訪れるその寸前まで誇り高きリーダーであり続けた。82年、まさに国にその全てを捧げた人生であった。

 別れは辛く悲しいものだ。この身が張り裂けるような苦しみをどう表現していいかわからない。しかし我々が彼のことを思い続ける限り、彼は我々の中で生き続けるのだ。不滅なる未来への意志は死をもってしても決して消えることはないのだ。


(やや間を開けて)


 彼の遺書には爆葬をせよと明記してあった。我々は彼の遺志に従い、これより彼の遺体を爆破する。棺に入れられた12個の特殊小型爆弾は彼のその体を一瞬で灰にし、骨を跡形もなく粉砕するだろう。しかし彼の残したものは我々の心の中に確かに存在している。その身が消し飛ぼうとも彼の生きた証が消えることはない。我々も今一度、彼の生き様を思い返しこの胸に焼き付けよう。


(国歌斉唱)


 さあ、ついに別れの時だ。彼の勇敢なる旅立ちを皆で見送ろう。さらば友よ。ハゼル共和国に栄光あれ。




「と、こちらがこの度の追悼式典のスピーチ原稿となっております、大臣。できるだけ力強く、雄々しく、猛々しくお読みください。その方が受けますので」


「うむ。しかしまた爆葬か。私はあまり好かんのだ」


「おや、そうだったのですか」


「あの火薬の匂いが駄目なんだ。なんだか胃がむかむかする」


「でも政治家はほとんど爆葬ですよ。大臣はなさらないんですか?」


「自分が死んだ後のことなんて考えたくないね」


「これは失礼しました。……ではそろそろお時間です。ご支度をお願いします」


「ああ。……そういえば目薬はどのタイミングで入れればいいかな」


「国歌斉唱の後に最後の安全確認をいたします。その際ヘルメット着用のために一度裾にはけてもらいますので、その時にお願いします」


「わかった」


 大臣は目薬をその胸ポケットに忍ばせて、会場へと向かっていった。そこでは多くの国民たちが、偉大なる彼らの国家元首が木端微塵に爆破されるのを心待ちにしていることだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

国家元首を爆破せよ 鍵崎佐吉 @gizagiza

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ