第三章

 私は次の日、約束通り公園に行った。

 でもガブはいなくて、また昨日と同じように腰を下ろした。

 月は今日も少し膨らんでいる。

 ちょうど南に月が見えたころ、また隣から声がかかった。

 『美奈ちゃん』

 少し驚いたが、私は平気な顔をして、『こんばんは、ガブ』と言った。

 隣に座ったガブはちょっと驚いた顔をしてからニコッと笑った。

 その日、ガブに家族のことを聞いた。

 すると、嬉しそうに家族について話し始めた。

 『僕の家は三人家族で山の奥で暮らしていたんだ。本当に幸せだったよ』

 そういい終えたガブの顔には先ほどまでの嬉しそうな表情は跡形もなく消えていた。

 ガブが悔しそうに噛んだ唇に血が滲んだ。

 『でも、殺された』

 その一言に息が詰まった。

 何か気の利いた一言を言ってあげられればどれだけ良かっただろうか。でも、私には何も言えなかった。

 横に座るガブを見ると顔を上げて月を見ていた。その顔は何もかも諦めたように笑っていて、私は不安になってガブの名前を呼んだ。そうしないと、今、名前を呼ばないと、ガブがどこかに行ってしまうような気がして。

 でも、私のか細く震えた声は公園の闇へと吸い込まれた。けれどガブはこちらを見てギュッと私の手を握った。


 『だからね、ママとパパのためにも長生きしないと』

 先ほどまでの表情とは全く違う、生きるという意志に満ち溢れた顔でガブはそう言った。

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