第20話 悪逆皇子、神殿騎士と握手を交わす

 カムアエルス。

 法と正義と裁きを司る、翼の神と呼ばれる神。

 この世界の主神とも呼ばれる、大きな神だ。

 やはり、そこが出てきたか。


「まずは、ご無礼をお許しください。

 カイル殿のお言葉通り、虚偽看破の奇跡を行使させていただいておりました」

「でしょうね。それで結果は?」

「――驚いたことに、あなたは虚言を一部しか用いていない」

「一部、は嘘を言っていたことはバレてたか」

「神の怒りを買う、神は嘘を許さない――とは、あなたは思ってはおられないようだ」

「我が女神は、そこまで狭量ではないのでね」


 そもそも、人間です、巫女です、と嘘をついているしな。


「我が女神――か。その言葉に嘘はない。確かに存在するのでしょう、新しい神は」

「ああ。私も最初にその存在を知った時は驚きました。そして私は命を救っていただいた。今ここにはいませんが、巫女であるフィーメにね」

「そして、その力を使い、神獣討伐も成し遂げた、と」

「そこも調べはついていましたか」

「ええ。驚きましたよ」

「なりゆきでは、ありましたがね。

 ともかく、そして私はこの神の名を広め、この世界に根付かせようと思いました」

「――なるほど、その言葉にも嘘はないようだ」

「ええ。嘘偽りは申しておりません」

「……」


 沈黙が怖いな。必

 今、。神殿騎士は必死に考えているのだろう、俺を信用してよいのかどうか。


 虚偽看破の奇跡には、決定的な弱点がある。


 それは、けっして心を読む、真実を見抜く奇跡ではないということだ。

 だから、秘密を暴くことは出来ない。

 発した言葉が嘘か本当かを見抜く、それだけだ。

 だから、俺としてはとてもやりやすい相手だ。肝心な事は言わない、それだけ守ればよいのだから。


「――わかった。あなたを信じよう」


 アシュレイが言った


「ありがとう」


 俺は頭を下げる。


「それで? 旅芸人ごっこがばれた以上、これからどうするおつもりでしょうか」

「ええ。我々の目的は、この村の信仰と発展にあります」

「ほう」

「カイル様がこの村を発展させるつもりであるように、我々もこの村に信仰を広めるためにやってきたのです。

 そして、我々はこの村にお世話になろうと思っております」

「ふむ」

「この村は、とても豊かです。正直、驚きましたよ。

 新しき神、オーグツ神の加護を受けているのであれば、それもうなずけます」

「――なるほど」


 自由にはさせんぞ。正体を見極めてやる。といった魂胆か。


「いいでしょう。ただし条件があります。

 旅芸人の扮装はやめて、改めてカムアエルス神の使いとして、この村を訪れてください」

「それは――」

「まさかよからぬ下心があるわけではないでしょう、カムアエルス神の使徒様が」

「しかし、それではこの村にいらぬ緊張を招くのでは――」


 アシュレイの言葉を、俺はやんわりと否定する。


「いえ、逆ですよ」

「逆?」

「今この村は、少しずつ大きくなっています。新しい村人たちが外から移住してきている。

 そうなれば、当然衝突が起きる。

 しかし、正直私のような、豊穣の女神の使徒では、衝突を治めるようなことは難しい。

 しかし、正義と裁きの神カムアエルス神の使徒の方々がおられるなら、村に秩序をもたらすことができる――違いますか?」


 これは本心だ。人が集まれば衝突が起きる。そのために自警団でも組織するべきか、商会づてで雇うかと思っていたが――


 この「監視役」は非常に都合がいい。


 そして、神官としての立場を明らかにしてくれるなら――

 他所の神官が、こっそり嗅ぎまわるなど出来はしない。目的はあくまでも、俺の監視なのだから。

 そして、正義と裁きの神の使徒が、豊穣の神オーグツを『認知した』という事に他ならないのだ。


「何か、問題でも?」


 まあ、大有りだろうな。

 だが、ここで「あなたたちをやはり認められないのでこっそり監視する」など言えないだろう。


 それは、自分たちの正義に反する行いだろう?


「いえ……わかりました。その条件で行きましょう」


 アシュレイはうなずいた。


「それはよかった」


 俺は微笑む。


「歓迎しますよ。ようこそ、我が村へ」




 こうして俺は、新たな仲間を手に入れたのであった。

 監視役とは、言い換えればボディーガードになる。

 そして、さんざん慇懃に煽ったせいで、彼女の疑惑は俺に集中するだろう。

 フィーメの力を、彼女に知られるわけにはいかない。

 旅芸人一座が神殿騎士団として出直してくる前に、そこらの打ち合わせをしておかねばならないだろう。




 こうして、旅芸人一座は村を去り、そして――


 神殿騎士の一行が村を訪れた。

 最初は村人たちも騒いだが、俺が彼らを笑顔で迎え、受け入れたことで村人も彼らを受け入れた。


 カムアエルス神の神官たちは、法と秩序の守り手だ。行きすぎれば圧政に繋がるが、彼らはこの村を支配するつもりできたのではない。


 あくまでも、俺の監視と調査だ。


 この状況を上手く使えば、オーグツ神の存在をカムアエルスの神殿勢力に「公認」させることも出来るだろう。

 失敗すれば――俺はめでたく詐欺師の烙印を押され、下手をすれば処刑だが。


 だが、面白い。


 勝負といこうじゃないか。

 アシュレイ・オルンシュタールよ。







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