16. おまえは虫けらなんかじゃないぞ
おまえは虫けらみたいな奴だと 取るに足らない奴だと
言葉で もしくはもってまわった態度でもって
当てつけられた 責め立てられた ぞんざいに放り出された
そんなおまえ そんな自分 そんなひとりの人間
肩をいからせてはねつけようとすることはない
そんな努力をする必要などない
それははねつけようとする以前にはねつけられているのだし
第一おまえは虫けらなんかじゃないのだから
思い出の風景 黄色い太陽が照っているのか 灰色の雲が覆っているのか
とにかくそんな大空にいくつも風が 風が吹きまくるその遥か眼下に
藪の中に 泥水で汚れた草むらの中で 生き死にが日々水路のように流れる
その荒々しい油画の風景の中で
一匹の芋虫が(もしくは一匹のみみず) のたくってのたくって
その残酷であまりにとげとげしい 身も心も圧迫するような世界の中で
何もわからないまま生を 生を 生を そして前進を
受容し 駆動し 絶えず流れゆく潮風の中で
蠕動し 消化し そして移りゆく視界の中に己の生命の残滓を
ふりしぼりながら
ただ一個の小さな有機体として
弱きものであるが故に 真の意味で祝福されている
確かにおまえは虫けらなんかじゃないが
私の記憶の中にいるあの「虫けら」ほど美しい存在も ありはしない
自分は虫けらなどではないと おまえを虫けら呼ばわりすることで証明しようとする
そんな奴は どうしたってあの「虫けら」のように気高い存在ではあり得ない
おまえは虫けらなんかじゃないが
あの「虫けら」のように 純粋で高貴な存在にはなれる
決して屈服などしない 決して生ある前進をやめようとはしない
そんな一個の存在として
「虫けら」のように美しくはなれる
ああ、こんな話は不可解だろう 少しばかり混乱していることは認める
このあたりでこんなおしゃべりは やめにしておこう
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