5. 欠如
まあ、これは詩だということを今回ばかりは忘れてしまって
ざっくばらんな調子で少し話してみよう
なぜこれが詩だということを一瞬でも忘れてしまわなければならないかというと
もし詩であるならば もし詩のようなもの、
詩のようなものを書こうと苦心した末に生まれたものであるならば
私は自分の詩を作る能力の欠如、要するに才能のなさに
あらためて唖然として
どうにも気力が挫けてしまうかもしれないからだ
私も人並みに恋愛や人生観にまつわる詩というものに
正面から取り組んでみようと思ったこともあった
しかし実際に書こうとして頭をひねってみると
これが思った以上にどうにもならない
なぜならそうした題材というのはあまりにも神経に響きすぎるから
(時にもよるが)あまりに切実な問題でありすぎるので
いざ言葉をあれこれこね回して表現してみようとすると
あまりに直接的な表現ばかり書かざるをえなくなる
そうなると、途端に詩としては、陳腐で、安っぽくて、小うるさい自己愛の
どうしようもない代物にしか ならなくなるんだね
胸が苦しいときには「胸が苦しい」としか書きようがないし
泣きたくなるようなときには「泣きたくなるような」としか書きようがない
途端に語彙が貧困になってしまって
なんとか工夫してよくできた詩を書いてやろうっていうあの
アマチュアなりのこだわりみたいなものが 消え失せてしまう
だから一歩距離を置かなくては無理だ 詩を書くには 修辞を使いこなすには
肺を押しつぶされて息もできなくなっているときに 歌うことなどできやしない
その気持ちを吐き出せなくなって (小難しい言葉を使えば)昇華できなくなって
それでどうしようも どうしようもなくなってしまって
本当にどうしようも どうしようもなく苦しくなってしまったときに
人は
やたらと酒を飲んだり
やたらと金を浪費したり
やたらと乱暴になったり
やたらと詩を読んだり
欠如しているのは詩作の才能だけじゃない
これを読んでいるあなたなら
もうこれ以上私がぺちゃくちゃ言わなくても
わかる
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