2. 遊星より

私は彼らに向かい、こうおごそかに告げた――

蒼き星の方々、提案と言っては何だが、

ここでひとつ、あなたがたの持つ「感情」というあの厄介な代物を

きれいさっぱり取り去ってしまうなんてのはどうだろうか。


私達の星も昔は、それはそれはたくさんの感情がひしめきあっていたが、

ある時自分達の持っているその邪魔以外の何物でもないそいつらを

気持ちのよいくらいに跡形もなく根絶してしまったのだ

考えるに、あなたがたも私達の同じように感情なんて捨て去ってしまった方が

より繁栄を望めるというもの

感情だなんて無駄極まりない

生産性がないじゃないですか

私達の使ったこの意識を加工する装置によって

例えばこれまで余計な感情とやらに振り向けていたものをどうにかして

   あたりまえの方向へ導いてやれば

余計なことを考えずに済むし

仕事もばりばりと

何時間だって自分を犠牲にして働くことができる

社会の役にたつ

そんな責任感溢れる優秀な人間になれますよ


と、私は告げた、確かに私は告げたのだが――

やはりやめた

すべて忘れてほしい

詳しい調査の結果、あなたがたの感情を消してしまうのは

どうやら採算が取れるような事業ではないとわかったのだ

私達のこの装置を稼働させるにはそれこそ

惑星何個分という資源をいっぺんに使い潰さなくちゃならない

私達の乗ってきたこんな遊星を作るより

もっとたくさんの資源をね

しかしあなたがたはもうすでに かなり上手くやっているみたいじゃないですか

感情らしい感情を持っている人間の方が

どうやらずっと少数で珍しいようですからね



蛇足になるかもしれない追記:私が自分のことを繊細で詩的な人間であると主張するためにこんなことを書いたのだと、どうか思わないでください。作家や芸術家といった人々の中で「感情」を持った人間の割合は、まあ5割ほどといったところです。誰々が「感情」を持っている持ってないなどと無責任に検討するのも、上から目線で感心できるような事じゃありません。「感情」という言葉の定義についてもはっきりとした答えを用意しているわけではないので、あまり厳密にこの詩の意味を理解しようとされることのなきようお願いいたします。もしかすると自分もとっくに「感情」なんてものを失ってしまった人間かもしれないという自戒の意味を込めてこの詩を書いた次第です。あしからず。




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