1. 彫像

小心翼々たる

小心翼々たる

そんな素振りは少しだって見せないが

実のところは小心翼々たる人々が

削って 削って 削り取る

その代物

ただそこに芸術的な意図が含まれているわけではないし、

無神経に触ってみたら削れてしまった、

しかし自分がその表面を削り取ったことにも気がつかない、

記憶にないという、

そんな不可解な営為


小心翼々たる人々がよく口にする、

彼らが脂汗をだらだら垂らしながら、

   真っ赤に充血した眼を子鬼のように動かしながら、

必死になって守ろうとする、

ささやかな幸せ と名のつく代物

そこにかつての面影はなく

ただの刺々しさと、言葉のない濁りのようなものが

その表情にこれでもかと恨みをたたえて

彫像としてすっくと立ちつくしている


何てことを言うんだ!

俺はただこのささやかな幸せを、ささやかな生活を、

守りたいだけなんだ!

そりゃ思慮が足りなかったり、いっぱいいっぱいになってしまって

人を傷つけてしまうことだってある、

だがそれがどうしたというんだ!

俺はただこのささやかな幸せを、ささやかな生活を、

守りたいだけなんだ!

そんな俺を傲慢だの冷血漢だのなんて言って批判するなんて、

絶対に許されない!


人並みの感性を持った、人並みの知性を持った立派な人達が

ひどく不格好な彫像を作る

そしてその彫像の目は夜半に赤く光るだろう

そして人並みの感性を持った、人並み以上の知性を持った立派な人達は

自分のうめき声で目覚める

そのうめき声は叫び声に変わるはずだ


そんな夢は忘れてしまう

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