第52話 婚約者

「エリー。ルードが婚約者なの?」

ミリアのそんな一言で飲んでいた紅茶を吹き出しかけた。


コホッ、コホッ!…ケホケホ…


吹き出さないように我慢したら、思いっきり気管に入った。


「何を言ってるの!? ミリア!」

思わず焦って否定した。


それは私たちが高等部に進学した直後のことだった。



「だって、よくルードと一緒にいるわよね?

そうよね?リリア?」


「そうですね。よくエレノア様がルード様と一緒におられるのを見かけます。」


「ですって。エリー。

本当のところどうなの?」

ミリアは興味津々な様子で笑っていた。


「ミリアならわかるでしょ?」

困った…理想と現実は異なる。

眉をひそめて困った顔を見せた。

「私もルードも家を継ぐ人間じゃないのよ。」


「そういえば…ごめんなさい。」

ミリアはそこに気づいていなかったらしい。


「別にいいわよ。ミリアはどうなの?

婚約者は決まったの?」


「私もまだよ。お見合いの話は来てはいるんだけどね。

しばらくは放置かしら。エリーもそうだと思うけど、私が勝手に選べるものじゃないのよね。」


「そうなのですか?

学園内で婚約者と歩いておられる方もかなりいらっしゃる気がするのですが。」

リリアが首を傾げた。


「学園の中で決める場合も結局実家同士でちゃんと話し合いが行われてるのよ。実際、お互いの家の関係で禁止になることも多いの。

仲が悪いってだけじゃなくて、どちらかが爵位を継ぐ立場にないと…

私とルードもそのせいで駄目だしね。

どちらか婚約者が決まってしまえば今みたいに話せなくなるわ。」


私にもお見合いの話はいくつも来ている。ルードのところにも多く来ているだろう。いつまで今みたいにルードと一緒にランチを食べたりする生活が続けられるか…


「大変なんですね…」


「そうはいっても、お互い次女、次男の時点でこうなることはわかっていたのよ。

だから、これでいいのよ。」


無理して強がってみたが、辛かった。ずっと考えないようにしてきたものと改めて対峙すると、今の楽しい幸せな生活の一部が遠くない日に欠落してしまうのが怖かった。


その日、屋敷に帰るとお父様から呼び出された。ある人とお見合いをしてほしいということだった。


私の今の普通が終わりを告げたことを悟った。

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