第51話 転嫁~2~
「お父様!お待ちしていました。」
「ただいま帰った。
夕食はあとにしよう。遅くなるかもしれないからエレノア以外は先に食べてくれてもかまわない。」
お父様の言葉にお姉さまたちは頷き、部屋に戻っていった。
「座りなさい。」
「はい。」
促されるがままお父様の書斎の椅子に座る。
「今はどこに?」
「なにがですか?」
「キールのことだ。」
「今は見張りをつけて監禁しています。」
「地下牢にか?」
「いえ。空き部屋です。」
「明日には地下牢に移しておけ。」
「キールを犯罪者として扱うということですか?」
救いを求める気持ちでお父様を見た。
お父様は少し黙ってあと口を開いた。
信じていたのに…どうしていいのかわからない。
頭が真っ白になるというのとは違う、現実から目を背けたいそんな気持ち…
「無罪だぞ。」
「え…?
でしたらどうして。」
「周りの目にもっと気を配れ。自分の部下にだけ優しくするな、地位の乱用だと言われるぞ。もし誰かがキールの様子を見に来たらどうするつもりだ。
訪ねてきた全員を屋敷に上げるのを拒否するのは難しいぞ。」
「すみません。配慮が足りていませんでした。」
「キールについてはわかったな?
そろそろ本題に移ろう。
そもそもなぜこのような事態になったかだ。」
「そもそも人身売買をやってたのって、クラナ家でしたよね。コーリアス派の。」
「そうだ。
前々から噂にはなっていただろ。ただ、証拠を掴めずにいた。最近ようやく追い詰められそうだったんだがな。
最後の悪あがきだな。責任をいくらかでも押し付けられれば良し。そうでなくとも時間稼ぎにはなる。キールの家を選んだわけは、ルミナリア家があったからだろうな。キールはお前の下で働いているから、あいつらにとって目障りなエーリア商会にダメージが入る。そうなれば、私の監督不足も出てくる。私への攻撃材料が手に入るわけだ。」
「そんなことのために…」
唇をかみしめた。クズな自分を守るために無罪な人間を巻き込むなんて。キールを守れなかった自分の不甲斐無さが悔しかった。
「キールの家族もまだ拷問はされていない。しばらくは大丈夫だ。陛下が止めている。その間に片を付ける。
エレノアは何もするな。いつも通りやれ。」
「キールたちはちゃんと助けられるのですよね?」
「それはもちろんだ。」
お父様は席から立ちあがった。
「エリー、夕食にしようか」
「はい。」
それから数日後、キールの家族は解放された。そして、クラナ家当主の絞首刑が行われた。
陛下の協力の元無事に処理できたということだった。
絞首台の床が落ちるバンッ!という音とともにこの事件は幕を閉じた。ただこれは始まりのゴングでもあった。陛下が協力したことで王宮の立ち位置がアルジエル派にあることがより顕著になったからだ。
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