第48話 疑惑と不安~1~

「エルミさん。いつもありがとうございます。」


「海を越える輸送なら俺らにお任せください。

今回は手紙も来てまっせ。」

エミルは商船の船長で、商会で作ったものを外国に売るときに私はお世話になっていた。


まだ歩くのにも慣れていなさそうな小さな少年がトテトテとエミルところに歩いてきた。

「エミルさん結婚してたのですか?」


私は驚いてエミルに聞いてみた。

「こいつか。名前はレンって言うんだ。」


「よろしくね。レン。」

私はレンに目線を合わせて言った。でも、レンは怖がってしまったのかおぼつかない足取りで船に戻ってしまった。


「すまねえな。まだ小さいから許してやってくれ。」

エミルはレンの行動に少し慌てた様子で頭を下げた。


「それはもちろんですよ。」

そう言いつつも私は少し寂しかった。子供の気まぐれとはいえ、避けられたのは。

そんな私にエミルが近づいて言った。


「レン本人にも言ってないんだが、あいつは俺の子どもじゃねえんだよ。

俺もまだ結婚してないからな。知り合いの子どもって言うか。とりあえず、両親はもういなくて俺が育ててんだ。」


「養子ですか。」


「んー…そういうことでいいよ。にしても驚かねえんだな。」


「よくある話でしょ。エミルさんがどこからか攫ってきたわけじゃなければ私が立ち入る話ではありませんから。」


「そうか。ありがとよ。」



私は受け取った手紙を屋敷で開けた。

この相手からの手紙にいつも中身といった中身はない。最近あったことや面白かった本の話が綴られているくらいだった。


その手紙の主は、本山で出会ったあのカナリア・フォン・エレアだ。

普段は大して内容がないのに…今回の手紙はいつもと違った。



拝啓エレノア・フォン・ルミナリア様


今回の手紙では重大発表をしようと思います。

なんと私カナリアは皇帝陛下の婚約者になることが決定しました!!

自分でもびっくりですよ。

婚約者とはいえ、婚約するまでは今まで通りですけどね。

ただ、今後は検閲が入るようになるかもしれないからそこはよろしく!

婚約者の話も手紙が届くころには大々的に発表されてると思うから大丈夫、そこのところは心配しないで。


最近あった話なんだけどね・・・


その後はいつも通りの手紙だった。


「いや、大事なところみじかっ!!」

私は思わず叫んでしまった。

それと同時に内容そのものにもひどく驚いた。


…考えた。

エレア家はそこまで大きい家じゃなかったはず……貴族位もそこまで高くなかった。じゃあなんで、カナが婚約者になった?

これはカナの冗談?冗談にしてはあまりに不出来すぎる…


真実かどうかはすぐにわかることとなった。

学院の始まる少し前王都に戻ると、セレア皇女が入学するという話も盛り上がっていたのだがそれだけでなく、カナリアが皇帝の婚約者として決定した話で持ち切りだったからだ。帝国も正式に発表しており、その情報が王国にも伝わった形だった。


はじめは、『カナ、おめでとう!』なんてのんきに思っていた。けれど、日が経つごとに何とも言えない恐怖が押し寄せてきた。はじめは宿題を忘れたときのような焦りだったが、日を追うごとにそれは強くなっていった。

私が貴族という立場でありながら帝国の次期王妃と個人的に文のやり取りをしている状況下になっていたからだ。

足元からゆっくりと凍っていくような、手足からどんどん熱が奪われていくようなそんな恐怖があった。


…お父様には絶対に言えない…この手紙のことを知っているのはリアナとエルミだけだ。別に今までの手紙にやましいことは一切ない。一切ないのに話せる気がしなかった。


「リアナ。どうしたらいいと思う?」


「手紙の中身を私は知りませんから、あまり適切なことは言えませんが。

内容に問題がないのであればヴィクトル様に相談なさってもよろしいのでは?」


「それは無理よ!!」

私は金切り声を上げて叫んだ。

普段こうヒステリックにならないから、リアナがビクッと体を震わせた。


「…ではどうなさるおつもりですか?」


「それは…でも自分でやるからもうほっといて!!」


「…わかりました。」

リアナは少し悩んだ後に部屋を出て行った。


どうしたらいい?

そもそもカナリアはどうして私に近づいた?

偶然かと思ったけど、もしかして私のことをはじめから知っていて近づいた?

私と仲良くなって、王国の情報を入手しようとしたの?

カナリアははじめから敵?

カナリアがそのつもりなら私だって同じことをしてやろう。

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