第46話 鳥籠を見る~4~
「行きましょうか、セレア皇女!」
「はい!!」
セレア皇女は私のほうに大きく身を乗り出して、目をキラキラ、口を大きく開いて言った。
私はセレア皇女とその護衛たちと一緒に王宮の裏口にいた。 今日はセレア皇女本人たっての希望で一緒に街を散策することになっていた。
街を散策するといっても王宮付近の貴族街を抜けてその奥の比較的治安のいい商店の立ち並ぶ地域を歩くだけだ。それでもその地域は学院の生徒が買い物するのにもよく使われれるので、学生が立ち食いできるような屋台もあったり、服屋があったり、カフェがあったりする場所となっている。
「セレア皇女。くれぐれも…勝手なことはなさらないでくださいね。 今日は、怒られるのが我々だけではなくて…エレノア様も一緒に怒られることになるのですからね。 それに、城の外は中ほど安全ではありません。城の中では皇女が勝手にどこかへ行かれてしまっても危険な状況に陥る可能性は少ないですが、街では簡単に危険な状況になり得ますから。」
「エレノアはどうしてるの?」
近衛と話していたセレア皇女はクルッとこっちを向いた。
「私は基本的に護衛と一緒に行きますよ。学院で買い出しがあるときは学院の警備の人についてきてもらったりしますし。あ、でもお兄様となら護衛をつけずに出かけたりしますかね。セレア皇女、くれぐれも近衛の方々から離れないでくださいね。そんなことになったら、私が教育係を辞めさせられることはもちろん、面会すらできなくなってしまうかもしれませんからね。場合によっては首が飛ぶかも……」
「そうですか。それは困りますね。 エレノアがいなくなるのだけは嫌ですね。」
「セレア皇女。近衛の方々の首も忘れないで上げてくださいよ!?」
「もちろん冗談ですよ。近衛の方々がクビにならないようにわきまえて行動します。」
セレア皇女はかわいらしく口元を押さえてフフッと笑った。
「ところでエレノア。外でも私のことをセレア皇女と呼ぶの?」
「皇女と呼んでしまうとばれてしまうので、セレアと呼ぼうと思っています。」
「呼び捨てなの?」
セレア皇女は首を少しかしげた。
「!!もし嫌でしたら、セレア様と…!!」
私のその言葉にセレア皇女口元を吊り上げてにっこりと笑った。
「ぜひ、セレアと呼んでください!! エレノアが私のことを呼び捨てで呼んでくれるんだな~って嬉しくなっただけですから。」
な~んだ…びっくりした…
「こういう時だけですけどね。」
「いつもそうやって呼んでくれてもいいですよ。 むしろ、そっちの方が嬉しいといいますか… 駄目ですか?」
セレア皇女は上目遣いにこちらの方をじっと見た。 あざと可愛い!!
「……わかりました。陛下や他の貴族の方々がいないときはできる限り呼びましょう。 その時の状況次第にはなりますが。」
リアナは後ろでやれやれといった風に額に手を当てていた。
「ありがとうございます。」
首を傾けてにこっと笑った。
もしもわざとならこの皇女は策士かもしれないな… なんて思いつつ裏口を使って城の外に出た。
「これが外なんですね… ひろ~い!!」
セレア皇女は目をキラキラさせてあちこちをきょろきょろと見まわしていた。
まるで初めて散歩の来て、外の世界にはしゃぎ回る子犬のみたいだ。
「セレア。目立つので叫ばないでください。」
「は~い。 はやくはやく!!!!」
「わかりました。」
セレア皇女は私の服の裾引っ張って走り出そうとした。
そうして色々見て回った。私にとっては見慣れたいつもの光景だった。 しかしセレア皇女に取ってはそうではない。ただの街の風景なのに、自分の街なのにまるで観光に来た人かのようにとても楽しそうにしていた。
「何か適当に食べましょうか。セレア、昼食はもう取りました?」
「もちろん何も食べていません!!」
食べてくれても良かったんだけどな…多少は買い食いするかもしれないから、お腹を膨らませないようにとは言ったけど…
「そうですか。何にします? 食べきれる分だけにしてくださいね。」
もうお腹が苦しくなるのはこりごり… お姉さまと本山の収穫祭に行った時の二の舞にだけはならないように…いくら十代の若い胃といえど多少は次の日に響くんだから。そう言いつつも前世でも大学生だったから結構若かったんだけどね。 買ったものは、まず近衛とリアナが食べ、私が食べ、最後にセレア皇女が食べた。
「美味しいですね…」
そう言うセレア皇女の目には涙が浮かんでいた。 「どど…どうしましたか?何か無理してないですよね?」
私も含め全員が大慌てでセレア皇女を見た。
「…大丈夫です……嫌なことがあったわけでもありませんから。 強いて言うなら今が楽しすぎて… いつもは食事も一人でとることが多くて、特にお昼はいっつも… エレノアとこうやって食事をしていると…いつもがどれだけ悲しかったんだろうって… いつもご飯は暖かいし美味しいのにどうしてか…手が、体が、冷たくて…」
セレア皇女は縮こまるように自分を抱きしめた。
そんなセレア皇女になんて声をかけていいのかわからなかった。
ただセレア皇女の肩に手を置いて抱きしめることしかできなかった。
「……セレアが学院に入ったら…一緒にご飯を食べましょうね…」
どうにか言葉を絞り出した。
「…はい。」
セレア皇女は頬を涙がつたう顔で私の目を見てそう答えた。
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