第45話 鳥籠を見る~3~
「教育係のお話、お受けしようと思います。」
再び陛下と面会していた。
「エレノア!ありがとうございます!」
「うむ、わかった。そなたがセレアの教育係となってくれることは余としても非常に嬉しく思う。契約書は用意してある。」
陛下は後ろに控えていた文官に目配せして書類を持ってこさせた。
「その前に一つよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「私のエーリア商会は…私のものですよね?」
…あまりうまい言葉が出てこなかった。
エーリア商会を乗っ取ろうと思って教育係に任命したのではないか?と聞こうと思ったんだが……
「ハッハッハハ!!なるほどのう。そなたの商会はこれからもそなたのものじゃ。決してセレアのものになったりせぬよ。
にしてもそなた…こういうところはヴィクトルとは違うな!
正直すぎる。」
「そうですか…」
なんとなくディスられてる気もしなくもないが……
書類を書き込んで契約が終わった。
やっぱりなのだが、私がやることは大してないらしい。必要なことがあればその時に言っててくれるということだった。
「エレノア。王宮を散歩しませんか?
私が案内します!」
セレア皇女は身を乗り出しながら、楽しそうに行った。
「そうですね。
よろしいですか?陛下。」
「では参りましょうか。セレア皇女。」
「はい!!」
セレア皇女は私の手を引っ張りながら小走りで部屋を出た。
「これにて失礼します。陛下。」
「ここが庭園です。こっちの方に行けば池の横にお茶が出来そうな場所があるんです。」
セレア皇女は近衛の一人に目配せした。その近衛はスッとどこかに去っていった。
どこもかしこも本当に手入れが行き届いていた。
緑のアーチが見えた。
緑のアーチの下でセレア皇女はクルンと回ってこっちを向いた。
「こういうところってワクワクしますよね?
私、ずっと一人でこの庭園とか散歩していたんですよ。時々近衛の方々から逃げて隠れたりもしてるんですよ。」
セレア皇女の横の近衛を見ると少し苦い顔をしていた。
「そんなことして後で怒られないんですか?そう言えば怒られたことはないですね。」
「ですが今日はやめてくださいよ。私が怒られるかもしれないんですから。」
「わかっています。
今日はエレノアがいるからそんなことはしませんよ。」
セレア皇女が近衛を鬼にして鬼ごっこをするのは…単なる幼さから来る遊び心なのかそれとも、いつも一人だから……
そんなことも考えながら、庭園を回っていると石造りのテラスがある場所に着いた。少し高くなっており、庭を広々と見ることが出来る造りになっていた。
そのテラスには先ほどセレア皇女が目で合図を送った近衛とメイドが何人かいてお茶の準備をしていた。
「行きましょう。エレノア。
お茶しながら色々聞かせてください。」
私はセレア皇女に引っ張られながらテラスの席に着きお茶をした。
「エレノアは何にする?」
「私は…何にしましょう?せっかくですから、セレア皇女の好きなのと同じで。」
私の言葉を聞いてセレア皇女は楽しそうにメイドに何のお茶があるかを聞いて、いくつかを手に取り悩んでいた。
お茶をしながらセレア皇女と話をした。私の学園での話、ミリアたち友人と一緒にいて何をしているかといった他愛ない話。
「私には友達というのは……」
ミリアたちとの話をしているとセレア皇女はうつむいて悲しそうに言った。
「私も学院に入るまで友人いませんでしたよ。一番付き合いの長いミリアですら、入学する少し前に初めて会いましたから。学院の生徒はほとんど皆そうですよ。多少は付き合いのある人間がいる生徒もいますがそうでない生徒もたくさんいますから、ご心配なさらないでください。
それに私は友人なのですよね?」
「そうでした!!」
セレア皇女はパアッと顔を上げて光が波打つ目で私を見た。
「でも、友達にしては敬語が随分と……」
セレア皇女は不服そうに唇を尖らした。
「それはお許しください。
そんなことをしたら、陛下にも父にも怒られてしまいます。」
「あなたたち。」
セレア皇女は近衛をぐるっと見回した、後もう一度私を見た。
「命令よ。私は友達が欲しいの。教育係も欲しいけど、友達がもっと欲しいのよ。」
リアナの方をチラッと見ると小さく頷いていた。オッケーらしい。
「わかりました。でも最低限は勘弁してくださいね。護衛がいる時はこれくらいの敬語で話すっていう暗黙の了解というもがありますから。」
「わかりました~。」
セレア皇女はどうにか納得してくれたらしい。頬を膨らませ、語尾が少し伸びているのは不満の表れなのだろうが、そこら辺は皇女本人も学園に入って周りを見ていればすぐにわかることだ。セレア皇女自身も私がここで後で簡単にばれる嘘をつくはずがないと信じてくれているのだろう。
ただ、私自身セレア皇女の望み通りできる限りフランクに接しようとしているのだが全然うまくいかない。自分が他の人たちより優しく柔軟性のある人間だなんて言うつもりもないが、ぼーっとしていてよくリアナに怒られるような能天気な私でさえ話している途中で話している相手はあくまでも皇女殿下なんだということが頭をよぎってしまい、セレア皇女の命令のようなお願いを無意識的に無視しかけて…いや無視してしまう。 それならば、貴族平民に関わらず、どの親も来年からは”皇女殿下とお話しするときは言葉遣いに気をつけなさい決して無礼がないように。”と子供に強く言いつけるだろう。
私であればここでのセレア皇女との話し方をお父様に話すつもりはないし、もしお父様の耳に入ってしまってもリアナがこの場の話を聞いてるのでどうにかなると思っている。
しかし他の子供たちはそうもいかない。親にフランクな話し方をしていることが知れればひどく怒られるだろうし、子供が”セレア皇女に言われたんだ!!”なんて言っても親は信じないし、セレア皇女が出てきてその旨を伝えてもセレア皇女は”わざわざ子供が怒られないようにお庇いになるなんて…”と言われてそのままその子供がさらに怒られるのは必至だろう。
「セレア皇女。私に対してフランクに接することを求めなさるのはいいですけど、ほかの方に同じようなことを求めないであげてくださいね」
「それは嫉妬ですか?」
セレア皇女は目をにこっと細めて上目遣いにいたずら顔でこちらを見た。
「半分くらいは嫉妬と独占欲ですかね~。」
私も冗談交じりにニヤッと笑って言葉を返した。
「残り半分はそういう理由ではなくてですね、セレア皇女自身の立場を意識して、親は子供がセレア皇女とどう接するのがいいと考えているかということだけは頭の片隅に置いておいてください。もしそれを望まれるなら私もできる限りのことはお手伝いしますから。」
「それは気を付けねばなりませんね。」
セレア皇女はニコッと笑ったが、その顔が悲しい顔を隠して無理に作った表情に見えて仕方なかった。
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