第41話 エゴの村

お菓子を配っていると、カイがどこかへ歩いていくのが見えた。彼は山に入っていった。しかし、山に入るのに、狩りの道具も持っていなければ、山菜などを取って入れるための籠も持っていなかった。気になった私はこっそりついて行った。人が歩くような道はなく、獣道のような道を進んでいった。ある程度歩くと少し広がったところに出た。そこには小屋や収穫途中の畑があった。


「クソ親父が!!」

彼は叫びながら足元にあった木のバケツを蹴り飛ばした。

「なんで…まいっかい、毎回。領主様の言うこと聞かねえんだよ。何が少し考えるだ…あの子供の言うこと聞く以外俺たちに生きる道は…

ここの畑だけじゃ冬は越しけれねえし…」


「その通りね。」

私は藪から出ていった。

「エレノア様、服に…」

服に付いていた葉っぱをリースが取ってくれる。何というか、格好がつかない…


カイが私を見てとても驚いた顔をした。


「ごめんなさいね。勝手に後をつけさせてもらったわ。」


「あのさっき言ってたこと…」


「私のことを"子供"って言ったこと?」

カイの顔が真っ青になった。


「まさか見られていたとは思わず…いえ、例えいらっしゃらなくても言ってはいけないようなことを…」

「カイ。」

「は、はい!」


「私のいないところで私のことを"子供"と呼ぼうがなんと呼ぼうが、どうでもいいの。まぁ、"美少女"と呼んでくれてもよかったのだけれど。」


私の冗談を受け入れられないほど、カイは慌てている様子だった。


「いくつか聞きたいことがあるのだけどいいかしら?

今から聞くことにもし嘘のことを言ったらわかってるわね?」


カイは真っ青な顔で口をバクパクさせながら頷いた。


「まず、この畑は何かしら?

おかしいと思ったのよね。これだけ何年も不作が続いているのにこの村から餓死者の報告が上がってないもの。村の人たちも痩せているとはいえ、今にも死にそうな状態じゃないものね。」


「…いただいた種で育てた作物です。」


「なんでこんなところで育ててるの?

村の畑で育てればいいじゃない。そっちの方が広いわよね?そもそも種ももっとあったと思うけど。」


「それは……その…」

カイはオドオドして口ごもっていた。


「税として申告してないのはこの際どうでもいいし、隠してたならそれはそれでいいから。」


「隠してはいたんですが…貴女様方からもなんですが、親父からというのもあって…」


これだけしか収穫がない状況で申告しないのは、よくないことではあるが意図はわかる。ただ…

「私たちから隠したいのはわかるのだけど、ルノーからというのはどういうこと?」


「親父が毎年捨てるんです。」


確かに先程の会堂でのルノーの態度を思い返してみると、なんら不思議はない。

「雑草とかを集めてる場所に捨てるんです。中身をばら撒くので…」

「全部は集めきれないと。それでこの畑分しかないのね。」

カイは頷いた。

「一度村の畑で育てたこともあるんですが、親父が…」


あの村長ではこの村はもう無理だ。カイの言っていることは後で村人に聞いて確かめればいい。

「まあいいわ。ここの畑はお父様たちには言わないであげる。

ところで、あなたはルノーのこと嫌い?」


「血の繋がった親父ですけど…今はいないほうがいいなって……」

カイは少し顔を伏せて答えた。


「貴女が村長になったらどうする?」


「本当に商会のお手伝いをしたら、村の皆ちゃんと食えるんですか?」


「それは保証するわよ。この冬の年越し分から用意してあげる。

仕事も貴族命令で犯罪まがいのことをさせるなんてこともないから安心して。

一応、別の方法としては村を移転するという手もなくはないけどどうする?」


「その場合はこの冬のための食糧は?…」

「この畑の分は見なかったことにするから、それで賄って。」

「わかりました。私にお手伝いをさせてください。村の皆も次来られるまでに説得します。

ただ親父は…」


「死んでほしいほど嫌い?」

「あれでも父親ですから、死なれるのはちょっと…」


「…わかった。ちょっとお灸をすえるくらいでいいかしらね。次の村長はあなたにするわ。よろしくね。」


「そんなの親父が納得するわけ!!」


「そもそも私に手を上げようとしただけで十分反逆罪よ。そもそもそれ以前の命令違反も目に余るしね。ハッキリ言って、次来たときに『従います』って言われても信用できないのよね。あの長老たちも。

だから、次来るときまで私がここで言ったことは内緒にしておいてくれるかしら?

どの村人にも言わずに。

私が持ちかけた提案なのだから、村人の説得には私も立ち会うわ。わかった?」


「わかりました。」

「よろしい!」

この日は私はそのまま帰った。




3日後、私たちは再び村を訪れていた。

カイが本当に話していなかったかは、村に旅人に扮した従者に確認してもらった。話の内容自体は話されても問題なかったのだがカイの信用を試したかったからやったことだ。


「では、話し合いを始めましょうか。

ルノー、取り敢えず貴方は村長を辞してください。」

「ふざけるな!!何の権限があって。」

「領主権ですね。村長は徴税や村の管理を効率よく行うためにいるのであって、それが出来ない人間は必要ないんですよ。

無駄に自分が偉いと勘違いするあなたよりかは、上から言われたことを全て聞いて行動する無能の方がかえっていいくらいです。

この状況で村長を辞めるだけで許そうとしているのですから、感謝されとも恨まれるのは違いますからね。」

私はルノーにニッコリと笑いかけた。

案の定、ルノーが私に掴みかかろうとしてきたのでリースを含む護衛何人かが取り押さえ外へ引っ張っていった。

「リース。殺しちゃだめよ。骨とかも折らないように手加減するのよ。」


「あなた達もよ。」

私は老人たちに目を向けた。


「この場から出ていきなさい。あなた達にその資格はないわ。出ていくならそれだけで許してあげる。」

彼らはすごすごと出ていった。


「これで良かったかしら?」


「はい。ありがとうございます。」

カイは頭を下げた。


「あの老人たちの代わりが必要ね。カイ、あなたが選んで連れてきなさい。」

「俺がですか?」

「そうよ。私この村の人たちのこと全然知らないもの。さ、早く。」


少ししてカイは何人か連れて戻ってくると、話し合いが始まった。私が教会から依頼されていた製鉄所を作る。図面などは予め本に書かれていたものを写して用意しているので、多少の試行錯誤はあれど大したことはない、と思う。数年以内には終わらせたい。

めぼしい技術者も、王都の工房経由であったり、お父様の紹介であったり声をかけておいた。

すぐに集まってきて着手できるだろう。私が学院に戻っている間にどれだけ進むか楽しみだ。


あとは、私がグレースであることを隠しながら上手くやれるか、ただそれだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る