第39話 お互いの理解

少し…いやかなりムカついていた。やはりというか、案の定というか、クレアさんはミナにも声をかけてきた。ついでに一度は断ったはずのリリアにも何度も声をかけていた。二人とも、私の従者として契約していたのでクレアさんには私の許可が必要な旨を伝えて断り続けていた。


そして今、私は典礼のパーティーでクレアさんと向かい合っていた。日頃から役員の仕事で顔を合わすことは多いが役員の仕事に支障をきたすのも嫌で、お互いその手の会話はしないでいた。今日みたいなパーティーが色々な人間と関わりを持ったり、噂程度の情報やらを集めたりする場であるので話し合いをするなら今日だった。


「エレノアさん。少しお話しない?」

「いいですね。普段は役員の仕事でお話する機会がないですからね。」

横に一緒にいたミリアたちは不安そうな顔でこちらを見ていた。けれど、周囲からはただ仲のよい役員が世間話をしているように見えていると思う。そう見えるように振る舞うことは私にとってもクレアさんにとっても利益がある。

こっちを見て微笑むクレアさんに私はニコリと笑い返して二人で場所を移した。


今回は私が矢面に立つと決めた。今回の件はお父様たちにはもちろん、お姉さまにすら全く相談していない。そもそもこれは貴族の"子供"同士の問題。当人同士で解決する問題であって、保護者が口を出すものではないと思う。今回はラインを越えていないから余計にそうだ。それに、いつまでもお父様たちに頼って、甘えてばかりもいられない。自分の商会を作った以上、自分が責任を持って全てを行わなくては…クレアさんと穏便に話を済ますのは少なからず練習にもなると思う。


先に口を開いたのはクレアさんだった。

「エレノアさん。最近も商会の運営とか凄いわね。私も少しは見習わなければいけないわよね。どうやったらいいのか教えてほしいわよ。」


まあ、いきなりぶん殴ってきたな…

要約すると、『貴女ばかりいいように目立って目障りなのよ!』というところか…


「いえいえ、そんな。私だけの力ではありませんよ。他の方々が頑張ってくれてるからですよ。リリアやミナたちがいるからこそですよ。」

「そうなのね。でも貴女の並外れた実力があってこそでしょ。」


私はリリアとミナの必要性をアピールした。

クレアさんは『エレノアさんの実力でしょ?それでも、少し目立ちすぎよ。少しくらい私を立てなさいよ。』とでも言いたいのだと思う。


「そんなことはありませんよ。普通ですよ。

リリアやミナがいなければ、仕事も回りませんし。それに、どうも私は人よりも寂しがり屋なようで、もし誰かがいなくなったら…ご存じかもしれませんが色々と立て込んだ際も本当に恐かったんですよね。」


ここで全く関係ないような話をしたかのように思えるが、私としてはこれ以上ちょっかいかけるなら貴女もあっちの派閥の人間と何ら変わりませんねと伝えたかったからだ。


一見、無関係に思える話を挟んだからか。クレアさんも私が何を言いたいのか考えたらしい。

クレアさんは少し考えた後顔をしかめた。私が言った皮肉、侮辱がいくらか伝わったらしい。


「そうね。確かにそうね…」


「結局人は無い物ねだりですね。クレアさんは私が優秀と思っていらっしゃるんでしょうけど、姉の背中を追いかけてきただけですからね。

私からすると、そんな私より自分だけで頑張って私にないようなカリスマ性まで持っているクレアさんの方が素晴らしいと思いますよ。」


「そんなお世辞はいいわよ。」


「お世辞じゃないですよ。大勢の前で凛として話している姿とか凄いかっこいいですし。私はそういうのは苦手ですから…」


「それなら、私は私の得意なことをするべきね。」


思ったより簡単に済んだ。普段を考えていると忘れがちだがクレアさんだってまだまだ子供だ。自分の優秀な部分に気付いて、そこに自信さえ持ってしまえば、後はなるようになるだろう。


その後、クレアさんが私に、私たちに突っかかってくることはなくなった。確かに円満とは言い難いような結果だったかもしれない。それでも私が譲歩するべきことはなかった。少なくとも私はそう信じている。


そのまま大したことはなく今年は終わった。武学競技会はお姉様が優勝という結果。そのせいで私に山ほどかけたイザベラ先生が破産しかけるという事件があったくらい。断じて私は手を抜いていない。そんなことをしたらお姉さまにぶちギレられてしまう。いや、本当に私に賭けまくるとは思っていなかった……教師ならもう少し生徒を信じつつも疑ってほしいな……

そして、役員ではクレアさん、そして私の従兄弟のロイド様が高等部に上がるに従って、新たな会長を決めることになった。話し合いの結果、モリスお兄様が次期会長となった。モリスお兄様の友人のルー様が会長となる話もあったが、ルー様は第二特権階級であるという理由から彼は自ら会長を辞退し副会長になった。


モリスお兄様が会長になったことで私の会長補佐も変更されることになった。私は会計科に入り、会長補佐にはルードがなった。役員の初めのときに補佐になれず不満げだったルードはとても嬉しそうだった。

私としては会計科になったことで今までより役員の仕事がいくらか減り、余った時間は商会の仕事をする時間に回すことができていた。モリスお兄様には一度そのことを話していたことがあったので、それもあって私を会長補佐から外したのだと思う。


それから私は商会を発展させるために忙しい日々が過ぎていった。

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